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Politics
2010-08-24

連立政権の支持率39%、不支持率41%(Coalition Government approval ratings: -2)

英国世論調査会社大手のYouGovによると、8月23日、保守党・自由民主党の連立政権の支持率は40%、不支持率が40%で、連立政権の評価は中立となった。http://today.yougov.co.uk/politics/govt-app-VI-analysis-24Aug  さらに8月24日、政権支持率は39%、不支持率は41%とマイナス2%となった。http://today.yougov.co.uk/politics/govt-trackers-update-24th-aug
支持率の動向は、ある程度長期的に見て、その推移の傾向を見なければならないが、それでも低下の傾向がはっきりと出ている。

5月11日に保守党と自由民主党の連立政権が発足して以来、100日を過ぎたばかりである。財政カットが政権のトップの課題であるが、今までのところ、実際に着手したものはそう多くはない。保守党が選挙期間中から約束していたように今年度予算からの62億ポンドの削減を発表したが、それ以外はかなり限定的だ。本当の財政カットは、これから始まる。10月20日に予定される包括的歳出見直しの結果発表では、一部を除く省庁が25%から40%の支出削減を強いられる見通しだ。すでに多くの省庁で、希望退職を募集しているが、かなりの数の国家公務員の解雇が予想されている。

付加価値税(VAT)を現行の17.5%から20%へ、2011年1月から上げることは既に決まっている。英国民が、政府のカットの影響を肌身に感じ始めると、政府支持率はさらに大きく下がるものと思われる。

Politics
2010-08-24

連立政権が5年続かざるを得ない事情(Clegg’s only option:Coalition Five years)

連立政権の問題は、保守党の支持率が40%台で推移しているのにかかわらず、自由民主党の支持率が崩壊したような状態となっていることだ。自由民主党は、総選挙の得票率23%の半分近い、12%(23日)、13%(24日)しかない。一方、保守党は41%(23日、24日)、労働党が39%(23日)、38%(24日)の支持率と、両党で80%程度の支持率がある。

来年5月に国政選挙投票制度の変更に関する国民投票が行われるが、労働党が反対、保守党が基本的に反対の立場を取っている。そのため、自由民主党だけの支持では、それが否決される可能性が極めて高い。この投票制度に関する国民投票は、自由民主党が連立政権に参画した大義名分であった。しかし、もし否決されても、この支持率では、自由民主党は連立政権を割って出て、総選挙に持ち込むことはできない。この支持率では、57議席を獲得した総選挙の半分以下に議席を減らす可能性がある。自由民主党のニック・クレッグ党首は、既に来年5月の地方選挙では大きく議席を失う可能性を認めている。さらに、この連立政権は、国民投票の結果にかかわらず、5年続き、その成果で評価を受けたいと言明しているが、5年後に経済が復活し、自由民主党の政権での役割が評価されるのを待つしか選択肢がなくなってしまっていると言える。

Politics
2010-08-20

財務副大臣ダニー・アレキサンダーの問題(Danny Alexander: the politician who may not have political instincts)

保守党と自由民主党が連立政権を作るまで、自由民主党党首ニック・クレッグの主席補佐官を務め、総選挙後、連立政権交渉を保守党、労働党と進めたダニー・アレキサンダーは有能な38歳の政治家である。2010年の総選挙も扱った労働党のマンデルソン卿の回顧録「第三の男」では、ストレートに交渉する人物としてマンデルソン卿も評価していたという印象を受ける。

5月11日に成立した連立政権では、自由民主党から入閣した5人の一人として、スコットランド担当相として入閣した。しかし、自由民主党のデービッド・ロウが、自分の同性愛パートナーに関わる議員経費問題で財務副大臣を辞任した後、その後任となった。なお、財務副大臣のポジションは、財務省のNo2であるが、閣僚ポストであり、スコットランド担当相よりも格上である。

そのアレキサンダーが、政治家としては必要不可欠な「政治的な直感」が欠けていることを露呈した。キャメロン首相が、歳出の効率化見直しの責任者として任命した、億万長者のフィリップ・グリーンを巡って、自由民主党側から大きな反発が起きている。グリーンは、ファッション業界で大成功した、英国で第6位と言われる大金持ちであるが、その所有する企業の所有権をタックスヘイブンのモナコに住む妻に譲り渡して、英国の税金をほとんど払っておらず、逃れた税金の額は3億ポンドにもなるといわれている。自由民主党は、税金逃れには敏感であり、今まで強く批判してきた。グリーンはまさしくその権化的な存在である。アレキサンダーはグリーンと任命前に会って、この任命を承知していたようだ。しかし、副首相で自由民主党の党首クレッグは、この任命を知らなかったと言われる。アレキサンダーは、総選挙前には、マニフェストをまとめる責任者で、自由民主党の主張を十分にわかった人物であるはずなのに、この問題にピンとこなかったようなのだ。

連立政権における自由民主党の役割に疑問が出ているが、もし、自由民主党からの閣僚が党の主張を守ろうとしなければ、自由民主党の評価はさらに下がると思われる。アレキサンダーは、優秀な人間イコール優秀な政治家とは必ずしもならないことを示した一つの例のように思える。

Politics
2010-08-11

連立政権の歳出見直し原則(The Objectives of Coalition’s Spending Review)

キャメロン首相とクレッグ副首相が連名で、8月3日、政府の歳出見直しについて閣僚に手紙を書いた。健康医療省と国際開発省以外の各省庁は、最大40%の歳出カット案を出すよう指示されたが、それらは10月20日の財務相発表までに決定されることとなる。この状況を反映し、連立政権の基本的な目的を明確にし、それに沿った歳出見直しにかける意気込みを改めてこの手紙に現したものだ。歳出見直しに対する全体的な戦略がないという批判に答えるためのものだと思われるが浅薄なものに終わっている。

手紙の内容の概要は以下のとおりである。

連立政権の最重要課題は、歳出を削減し、財政を立て直しながら、経済回復をはかることで、その結果、繁栄する英国を作ることが目的である。

まず、権力を中央から地域、そして人々に委譲することである。端的には、一般の人に学校の開設を可能にしたり、地方議会議員らが地元のNHS(国民医療サービス)の運営に影響を与えたり、さらには管区警察の仕事を監視することがある。それには、地方や地域、さらに個人でできることは、これらの機関や人にしてもらい、また、これらの機関が何をどうしているかを誰もがわかるようにするということである。これらが達成できれば、人々は、自分たちが自分たちのことを決める力があると感じ、しかもその責任を感じると主張する。

次には、この政権は、長期的な視野にたった決断を下すという。将来の世代への環境を守り、政治の透明化と責任を明確にすることだけではなく、歳出の見直しに当たっては、福祉手当に依存している人々を仕事に戻す、幼い子供教育優先、若者の失業を減らし、将来の経済発展につながる社会のインフラ優先を列記している。

これらがどの程度、歳出見直しの結果に反映されるか見ものである。

Politics
2010-08-10

英国の政治を変える二法案(Two Bills that could change British Politics)

7月22日に、副首相ニック・クレッグが二つの法案を発表した。定期国会法案と下院の投票法並びに選挙区法案である。もし、これらが実施されることとなると英国の政治が大きく変わる可能性がある。

定期国会法案は、現在首相が握っている解散権を奪うものである。特に定められた場合以外は5年の会期を全うするものだ。その定められた場合とは、全下院議員の3分の2が解散に賛成した場合か、政権の不信任が可決されたが、14日以内に下院の信任を得られる政権が生まれなかった場合である。なお、第二世界大戦後、政権政党が3分の2の多数を握ったことはない。さらに、もし5年の途中で解散した場合には、その時点から再び5年が始まることとなる。

下院投票法並びに選挙区法案は、二つの異なる案を一つの法案に入れたものである。まず、下院の総選挙では、これまでそれぞれの選挙区の最多得票者がその得票の割合に関係なく当選する仕組みが実施されてきた。それをAV制という、当選者がその選挙区の投票の過半数を占める制度に変える国民投票を2011年5月5日に実施するものである。それに選挙区の数を650から50減らし、しかも選挙区のサイズをほぼ均等にする案を加えたものである。もし、AV制の国民投票が賛成多数の場合には、選挙区の新境界の実施と同時に施行されることとなる。なお、この新境界設定作業は2013年10月までに終えることとなっており、それ以降、5年ごとに行われる。

クレッグ副首相は、この法案は下院と民主主義に根本的に重要なものだと表明した。しかし、この法案を扱う委員会は、この法案を吟味する十分な時間がないという。法案の基本的な内容を下院が認めることになる極めて重要な第二読会は9月6日に予定されるが、夏休みがあり、それまでに委員会でわずか2回しか十分な審議ができないという。

Politics
2010-08-09

サッチャーのように「ミルク泥棒」になりかけたキャメロン(Nearly Milksnatcher Cameron?)

連立政権の大臣政務官が保育所に通う5歳までの子供への無料ミルクを廃止する方針だったが、キャメロン首相がそれを覆して、継続すると発表した。これには、1971年に、ヒース保守党政権で教育相だったサッチャーが7歳を超える子供たちのミルクを廃止して「ミルク泥棒」と呼ばれたことが念頭にあると思われる。サッチャー政権下の1980年、5歳から7歳の子供の無料ミルクを廃止している。

今回の廃止の理由は、この無料ミルクで子供たちの健康にプラスになっているというはっきりした証拠がないことである。過去5年間で費用が2倍になっており、来年度にはこれがイングランドだけで5900万ポンド(80億円)になる。財政削減に政府が取り組んでいる中、これを廃止し、この予算の一部を、低収入家庭を優先した、ミルクだけではなく、フルーツなども含めた引き換え券制度とする方針だった。政策としては、一応、筋が通った話に聞こえる。サッチャーの場合も、予算を削るためだったが、ミルクを飲む子供が減り、子供のために用意されたミルクをチーズ業者が買い取るような状態になっていたので、廃止に踏み切った。もちろんこういうものの廃止案は、財政が厳しい時に出てくる。

問題は、筋が通っているだけでは、政治で通用しないことだ。イメージとかシンボリズムの問題がある。この点で、キャメロンは、二点で正しい判断を下したように思える。一つは、子供を重視するという姿勢をみせたこと。連立政権が学校の建て替えを大幅にストップした直後に子供軽視に見える政策は適当ではない。さらに、非常に厳しい財政状況だが、大切なもの(実際は、大切そうにみえるものといったほうが良いだろうが)は守るという態度を見せたことだ。

財政状況が厳しければ厳しいほど、こういうシンボリズムは大切になる。


大学授業料:自由民主党を助ける保守党(Tuition fees: Tory’s Attempt to Rescue Lib Dems)

保守党は、世論調査で40%代の高い支持率を維持しているが、連立政権のパートナーである自由民主党は、13%ほどで、非常に低いままだ。そのため、自由民主党の内部で次第に不満が高まりつつある。9月末に行われる自由民主党の党大会に向けて、保守党は自由民主党のリーダーたちを助けようとしている。

保守党は、大学授業料の問題で自由民主党に大きな譲歩をする姿勢を見せた。自由民主党はこれまで長く、大学授業料を廃止すべきだと主張してきており、この総選挙でも、厳しい財政状況を勘案して、6年間で徐々に大学授業料を廃止する案をマニフェストに盛り込んでいた。また、総選挙前に、自由民主党のほとんどの下院議員が、全国大学生組合に大学授業料値上げには反対するという約束をしていた。

ところが、大学関係予算も大幅な削減に迫られている中、大学運営の財源を確保するために、何らかの手を打たざるを得ない。大学は、ビジネス省の管轄下である。ビジネス相は、自由民主党のビンス・ケーブルであり、ケーブルは、授業料を上げる(実際は、授業料の額は各大学に任せられており、その上限を上げるということ)代わりに、大学卒業後に、その収入の一定額を税のような形で徴収する方法を提唱した。それを提唱した途端に、保守党筋(ビジネス省の大学担当副大臣の保守党のデービッド・ウィレッツではないかという見方があるが)から、そういう案が通ることはない、との横槍が入っていた。

しかし、ここにきて、ケーブル案のような卒業後に徴収する案が最有力となってきた。実は、連立政権の政権プログラムで述べられているように、大学教育の財源を検討する調査委員会が、その結論をこの秋までに出すことになっている。本来は、それが出てきた後、どのような政策を取るかが決まるはずだが、政府が望む方向を強く示唆しているという形だ。政権プログラムが発表された時点では、授業料の値上げが有力であったために、もし結論が自由民主党の受け容れられるものでなければ、自由民主党は国会での採決に棄権が許されるとも決めていた。

まだ今後状況が変わる可能性はあるが、保守党が弱い立場にある自由民主党を助ける方向でまとめるのは恐らく間違いないと思われる。

Politics
2010-08-02 Britain's best Prime-ministers

リーズ大学が、政治並びに歴史学者106人に1945年以降の英国首相の評価をしてもらった結果では、以下のような結果となった。
http://www.leeds.ac.uk/news/article/867/academics_rate_brown_one_of_the_worst_post_1945_pms

1. Attlee
2. Thatcher
3. Blair
4. Macmillan
5. Wilson
6. Churchill
7. Callaghan
8. Major
9. Heath
10. Brown
11. Alec Douglas-Home
12. Eden

トップとなったアトリーは、10点満点中、8.1点を獲得し、二位のサッチャーの6.9点、三位のブレアの6.4点を大きく引き離している。ブラウンは、下から3番目と非常に低く評価されている。第二次世界大戦後の破産状態にあった英国を福祉国家とし、国民医療制度を作ったアトリーが高く評価されている。1950年代に首相となったが、高齢であり、確たる業績を残せなかったチャーチルは低く評価されている。

Politics
2010-07-15

犯罪数記録上最低(Crime figures the lowest since records began in 1981)

イングランドとウェールズの2009年度の犯罪数が、英国犯罪調査(BCS)という指標で1981年に記録を取り始めて以来最低となった。英国では、犯罪数の統計については、二つの指標がある。警察の統計と英国犯罪調査(BCS)と呼ばれるものである。BCSは、一般人にその犯罪の経験を聞いて推計するもので、警察統計に出てこないものも出てくる。前年度から9%減り、960万件となった。警察統計は、前年度から8%減り、430万件となった。そのため、この二つの指標で、犯罪数が減少しているのは間違いないと見られている。特に殺人事件が前年から6%減って615件となっていることは、それを裏付けている。なお、スコットランドと北アイルランドでは、独自の統計を取っている。

この統計を受けて政府は、「確かに犯罪数は減っているが、それでも犯罪数が多すぎる」とコメントした。これは、犯罪数の減少が前労働党政権の功績と見られることからそれを牽制したものである。しかし、連立政権は、大幅な財政カットをし、警察予算も大幅に削る予定だ。もし犯罪数が上昇するようだと、連立政権の責任が問われるだろう。

Politics
2010-07-07

新投票制度は政治への信頼を回復するか?(Voting Reform Recovers Trust ?)

副首相ニック・クレッグは、現在の投票制度を変更するAV制の導入に関する国民投票を2011年5月5日に行うことを発表した。それとともに、下院議員の数を650から50減らし、600にするとともに、選挙区のサイズを均等にする方針を明らかにした。これらは、先にも述べたように、連立政権を構成する、保守党と自由民主党の案を統合したものである。

これを発表した際に、クレッグは、この新投票制度は「国民の信頼を取り戻す」ことを望むと言ったが、果たしてそのような結果が生まれるだろうか?クレッグの案のなかには、途中で解散することの難しい5年の国会、さらには、議員の名誉を著しく傷つけた人は、選挙区での投票で解職できるなどの要素が含まれているが、クレッグの案の中心は、投票制度の変更である。

まず、この案が実際に適用されるとどうなるか、テレビ局のチャンネル4が世論調査会社YouGovに依頼して、世論調査結果をもとにシミュレーションをした。その結果は、50議席減少後の600議席中、保守党288、労働党220、そして自由民主党67議席と出た。650議席での選挙結果と比べると、保守党マイナス19、労働党マイナス38、そして自由民主党プラス10である。この結果は、保守党にやや有利、労働党は不利、そして自由民主党には有利という結果だ。

YouGovの5月6日の総選挙前に行った世論調査では、労働党に投票するつもりの人の3分の2が、保守党・自由民主党が競っている選挙区では、二番目の候補者として自由民主党を選ぶと答え、また、保守党と労働党が競っている選挙区では、自由民主党に投票するつもりの人は、次に選択したい候補者として保守党と労働党を2対3の割合で選ぶと答えている。その結果、もし、5月6日の総選挙がAV制で行われていれば、その結果は、保守党がマイナス30議席、労働党がプラス11議席、そして自由民主党がプラス19議席の結果だっただろうという。

YouGovが6月の末に行った世論調査の結果は、選挙前とかなり異なっている。これは、保守党と自由民主党との連立政権ができたために、政党の支持者の第二の選択が変わった。保守党支持者はほとんど変わらないが、労働党支持者で自由民主党を第二選択にする人は、3分の1となり、自由民主党支持者では、労働党よりも保守党を第二選択にする人が多くなっている。つまり、その時々の政治情勢で結果は変わる可能性があるが、この新制度が導入されると最も大きなダメージを受けるのは労働党である。しかし、いずれにしても単独で過半数を占める政党は出ない可能性があり、多くの有権者にとっては、変化はわずかな差だ。

問題は、選挙区の区割りの問題だ。2010年5月6日の総選挙で使われた新しい区割りの決定には7年かかっている。しかし、今回の区割りは、2013年末までに結論を出すようにするということで、かなりのスピードアップを図る予定だ。しかし、議員の数が減らされることと、選挙区のサイズを均等にするために、従来の行政区などの境界を無視して選挙区の区割りをすることとした。これは、かなり大きな混乱を招く可能性がある。しかも、人口の移動に伴い、選挙の度に境界が大きく変更される可能性がある。

さらに影の法相のジャック・ストローが指摘したように、有権者登録していない潜在的な有権者が350万人いると見られているが、これらの多くは、都市部に居住しており、労働党の強い地域に多いと見られている。クレッグは2009年12月現在の有権者名簿を使って区割りをする予定であるが、これらの潜在的な有権者を無視している。その結果、労働党にさらに不利になる。結局、この制度で次の総選挙が行われることになれば、労働党はその次の総選挙を意識して、有権者掘り起こし作業も行うであろうから、次の区割りはかなり大幅なものとなるだろう。

結局、自由民主党には、議席増しにつながる制度変更であるが、特に労働党にとっては明らかにアンフェアな制度の変更であり、以上のような予測しうる問題点を検討すれば、有権者の信頼を勝ち取るよりも、信頼をさらに失う可能性がある。


クレッグの弱み(Clegg’s Weakness)

クレッグの下院での新投票制度の発表について、ガーディアン紙のサイモン・ホガートが、クレッグを「完全な国を夢見る孤独な生徒」と表現した。つまり、クレッグは自分の世界に住んでおり、現実と乖離して自分だけが正しいと思っている人物という意味だ。

クレッグには一種の信念があると思われる。その言葉には総選挙前に見られたように、時に迫力がある。しかし、現在まで余りにもとんとん拍子に来たために、つまり、私立の有名校ウェストミンスタースクールからケンブリッジ大学を出て、アメリカ留学をした。そして欧州大学院大学で学び、欧州委員会の職員などを経て、1999年に欧州議会議員、そして2005年に下院議員となった。そのわずか2年半後には自由民主党の党首となった。クレッグが党首となっても、キャメロンとは党首としての経験が大きく異なる。ブラウン労働党との対決に多くのエネルギーを使い、党内の批判派と戦いながら、保守党を変貌させようとしてきたキャメロンは、党首として多くの経験を積んできた。ところが、そういう緊張感を持つ必要のなかったクレッグには、そういう経験がない。

そのためだろう。総選挙期間中に、非常に大きな失言をした。それは、「ブラウン率いる労働党とは手を組まない」というものだった。クレッグは、どういうわけか、自由民主党の方が、労働党よりも多くの票を獲得すると信じていたようだ。もちろん、議席数では上回れないのは十分に承知していたが。経験豊かな政治家なら、どういう結果となるか読めない政治状況では、言葉にかなり慎重になるが、クレッグにはそういう心配が乏しかったようだ。

今回の発表でも、政治の信頼を取り戻すという議論はわかるが、その内容は、自己正当的な議論が主流で、かなりお粗末なものだと言わざるをえない。しかし、驚いたのは、クレッグの厳しい労働党攻撃だった。確かに自由民主党は連立政権の一員であり、労働党は敵だ。しかし、AV制の国民投票を実施するまでは保守党が力を貸すが、保守党はAV制に反対で、AV制の国民投票では「敵」となる。むしろ、味方にしなければならないのは労働党だが、クレッグにはまったくその気がないらしい。タイムズ紙のアン・トレネマンは、クレッグが下院でしたことは「いかに友人を失い、誰も説得できないか」の見本だという。

労働党は、今までAV制を前向きに考えており、労働党の党首への最有力候補のデービッド・ミリバンドもAV制を支持すると言っている。しかし、新投票制度が労働党には大きなマイナスになる可能性が極めて高いことを考えると、その立場を変えざるをえなくなるだろう。既に、労働党の元副党首で、副首相であったジョン・プレスコットは、AV制に反対の立場で動き始めた。その結果、AV制に、英国の2大政党が反対する、もしくは賛成しないという状況になる可能性が高まっている。

クレッグには、政治家としての経験が足りないと思われる。もちろん、経験がなくてもその仕事がうまくできる人もいるだろう。しかし、その場合でも、政治的なセンスが必要だ。クレッグにはどうもその「政治的なセンス」が欠落しているように思えてならない。

Politics
2010-07-06

新選挙制度案:概要(Clegg’s Voting Reform Plan)

保守党-自由民主党の連立政権が7月5日に下院で新しい下院の選挙制度案を発表した。その基本は、当選者の決定方法を変えるとともに、選挙区の数を650から600へ50減らし、各選挙区のサイズをほぼ均等にすることである。連立政権でこの分野を担当しているのは、副首相で自由民主党の党首、ニック・クレッグであり、これらの改革をすれば、有権者の政治への信頼が取り戻せる、と主張したが、果たしてそのような効果があるかどうか疑問である。また、この件で、クレッグの政治家としての弱さが浮き彫りになった。

この選挙制度案の中の根幹となるのは、順位指定投票制(AV)である。これまで下院の議員を選出するためには、有権者が投票用紙で一人だけを選び、各選挙区で最も多くの票を獲得した候補者を当選者とする制度を取ってきた。そのため、これまでは有効投票の4割にも満たない得票で当選する人もいた。これを有効投票の50%を獲得した候補者が当選する制度にして、当選者の正当性を高めるのが目的とされる。つまり、有権者が投票用紙の候補者に順位をつけ、第一位に指定した候補者が50%の得票を獲得すれば、それで当選、もし50%なければ、最下位の得票者が除外され、その除外された候補者の票で第二位に指定された候補者にその票を割り振る。それで50%得票した人がいれば当選するが、それがなければ、50%得票する人が出るまで同じ作業が繰り返される。

総選挙前には、このAV制は、自由民主党にかなり有利になり、労働党にやや有利、そして保守党には不利になると見られていた。それが、労働党がマニフェストでAV制の国民投票を謳った一つの理由である。この見通しの理由は、労働党、もしくは保守党に投票する有権者の第二選好は、自由民主党となる可能性が高いということであった。さらに、自由民主党に投票した人は、第二選考に労働党を選ぶ傾向が強いということも背景にある。

自由民主党は、本来、比例代表制の導入を求めていたが、それがかなえられないために、次善の策として、このAV制の国民投票を提示した、選挙で最も議席を獲得した保守党との連立政権に参加したのである。しかし、保守党がこの国民投票を行うことに賛成しても、保守党がAV制に賛成するわけではなく、保守党は既存の制度の存続を求めている。これは、一つには、上で述べた理由に基づく。

保守党は、AV制の国民投票の実施を約束した際、条件を出した。それは、下院議員の数を減らし、また、選挙区のサイズを基本的に同じものにするということである。下院議員の数を減らせば、一選挙区あたりの有権者の数が増え、しかも、選挙区のサイズを同じようにすれば、保守党に有利だという計算に基づいた考え方だ。スコットランドやウェールズでは、その地域性を考慮して、下院議員の数がイングランドより割り増しされているが、それがなくなり、これらの地域で強い労働党に不利となる。また、労働党の強い選挙区は、比較的有権者の数の小さな都市部の選挙区が多いが、有権者の数を増やし、選挙区の大きさを同じようにすれば、労働党の有利な選挙区の数が減るという計算だ。その結果、もしAV制が導入されても、保守党はそのマイナスを補えるという計算であった。

結局、連立政権の両党の主張を足した形の選挙制度が今回提案されたわけである。

〈続く〉

Politics
2010-06-27

日本の政治家の失敗(Japanese Politicians’ Mistakes)

民主党の新党首、そして新首相となった菅直人氏は、英国の政治に強い関心があると伝えられていたが、その前任者らと同様、英国の政治に誤解があるようだ。マニフェストに何を、どう盛り込むかという点でも誤解があるが、英国の政治につきものの二つの重要なものを理解していないようだ。

それは、世論調査と有能なスタッフである。ここでいう世論調査とは、新聞社などが行う一般的な世論調査のことではなく、政党が自ら行う独自の調査のことである。特に、フォーカスグループなどを使って、どういう政策を、どういう形で訴えていくかを慎重に検討するのは英国では当たり前になっている。しかし、菅首相にはそれをしたような形跡がない。政治家の勘やフィーリング、もしくは単なる論理に頼っているとすれば、時代遅れというそしりを免れないであろう。

さらに、有能なスタッフは必要不可欠である。政治家のリーダーシップが十分に発揮されるためには、きちんとした、その土台がなければならない。その土台作りがきちんとできる有能なスタッフが必要である。しかし、先の鳩山首相にも見られたように、その政策決定や政策の発表に当たって、慎重にすべての要素を検討した形跡がない。政治は、単に希望や憶測だけでは行えない。それらの不確かさをできるだけ排除した後、リーダーシップがきちんと発揮される可能性が出てくる。

英国の政治にも問題が多いが、ほとんどの政治家は上の二つの点の重要さをよく理解している。

 

 


 

 

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連立政権の支持率39%、不支持率41%(Coalition Government approval ratings: -2)

 

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