British Politics Today
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2012年5月16日

人が重要(Manufaturing is coming back to Britain)

人の質が大切だ。英国の製造業は、人件費が高いために発展途上国に仕事を奪われていると多くの人が信じている。それはある程度事実かもしれない。しかし、本当の問題は、他にあるようだ。

5月8日と15日のBBCのテレビ番組「The Town Taking on China(中国に挑戦する町)」で、英国のビジネスマンの経験を追っている。リバプールの近くのカービーという所にクッションの工場を持つビジネスマンが、2004年に中国の福州にクッション製造の工場を開いた。しかし、中国でも人件費が開設当初の月50ポンドから現在では250ポンドと5倍になった。しかもインフレ率が年に10%近くとかなり高い。製品のクオリティや輸出費用、関税、それに為替変動などを考えると中国で製造してもメリットがほとんどなくなった。中国で作っているのは、安価なものであり、高級品は英国工場だが、アメリカなどでは「英国製」の方が「中国製」より高い価値があると見られている。そこで英国で大幅にスタッフの数を増やすこととした。これまでは地域にミシン工の経験者で失業している人がかなりおり、比較的簡単に雇うことができたが、それにも限界があるので、若者を雇い、トレーニングすることにした。この工場の地域には、失業が多く、1つの仕事に対して求職者が14人もいるという状況だという。

(なお、このビジネスマンは、5月3日のリバプール市長選に保守党から立候補した人物である。リバプールでは労働党が非常に強く、労働党候補が市長に当選した。このビジネスマンの政治的な動機が、英国で大きな問題となっている若者の失業率に取り組もうとした一つの理由かもしれない。)

この中でわかったのは、特に若い人たちの中にあまり質のよくない人たちがいることだ。よく病欠する、誰にも言わずに勝手に仕事をやめる、仕事の時間が長すぎる、仕事でへとへとになる、給料がばかばかしいほど安い(最低賃金の6.08ポンド《800円》)と文句を言う。

これは英国一般に当てはまる。英国人はよく、EUの中では基本的に労働力の自由な移動が認められているため、他の国、特に東欧のポーランドなどから来た人たちに職を奪われると文句を言う。しかし、実態は、上の若い人たちの事例と似ている。ポーランド人は一般にきちんとよく働く。ポーランド人は「日本人のように働く」と言う人もいる。これでは、英国人の中の「怠惰」な人たちとは比較にならないだろう。

心配なのは、今の日本人、特に若い人たちである。日本人の質が落ちてきていなければよいがと願う。

2012年5月10日

キャメロン首相のスピーチの本音?(What Cameron “in truth” said in his speech)

タイムズ紙のOliver Kammが、キャメロン首相の使った言葉の「本当の意味」を分析している。これは一種からかうための記事だが、その中の幾つかは真実をついていると思われるので、説明を付け加えながらここで紹介したい。

まず、Tough decisions である。キャメロン首相はこの言葉を頻繁に使う。首相のクエスチョンタイムでも、それ以外のスピーチでもこの言葉を聞かない時はほとんどない。Kammはこの意味は、Vote-losing policiesだと言う。つまり、票を失うが、どうしてもやらねばならない政策、という意味だと言う。

We're all in this together. この言葉もよく使う。聞いていると確かに誰もが同じ船に乗っており、同じ運命を共有していると言っているように感じる。Kammはこの意味は、Living standards are falling だと言う。つまり、生活水準が落ちていると言うのだ。しかし、4月29日のSunday Times Rich Listによると英国の金持ちトップ千人の資産は前年より4.7%増えている。ほんとうにWe're all in this togetherか疑問な点はあるが、これはさて置き、次に移る。

Families that work hard and do the right thing の意味は、Kammは禁欲的で、文句を言わない人たちを好むという意味だと言う。これは、あまり努力せず、文句を言ってばかりいる人が多すぎるということをそれとなく言っているのだろう。

Rebalance our economy は、多くの政治家が使う言葉だが、Kammはこの意味は、The recession is the banker's fault だと言う。つまり、リセッションは銀行が起こしたと言う。

面白いのは、We need to do more, constantly strive to do more の意味だ。これはKammによるとThe economy is contracting and we're unclear what to do about it つまり、経済が縮小しているが、どうしたらいいかはっきりわからない、というのだ。確かにこの解釈にはかなりの真実があるだろう。はっきりしていれば、もっと具体的なことをいうからだろうからだ。

Efficiencies は、KammによるとSpending cuts つまり、支出削減だという。これは本音だろう。

そしてキャメロン首相の使った言葉、People want to know that we're not just bunch of accountants  である。Kammは、誰も政府が会計士の集団だなどと非難していないが、財政削減には目的があるということを意味するためにこの言葉を入れていると言う。これはまさしくその通りだろう。

そして最後にキャメロン首相のよく使うフレーズ Let me spell this out と Let me be clearである。Kammはこれらのフレーズには何も意味がない、政治家は、こういうフレーズを使って、わかりやすく話しているという印象を与えようとしているだけだ、という。つまり、こういう言葉を使えば、なんとなくわかりやすく話しているような感じがするというだけだというのだ。これは本当だろう。

キャメロン首相をはじめ、トップ政治家のスピーチは、ほとんどスピーチライターの手が入っている。スピーチライターの仕事は、真実にベールをかけ、聞きやすく、与えたいメッセージが受け入れられやすく、そしていい印象を与えるようなスピーチに仕上げることだ。簡単ではない。

2012年5月9日

国会開会式(The State Opening of Parliament)

英国の国会開会式は、ファンファーレと昔ながらの儀式に満ちている。今日も同じだった。

大法官の法務相ケネス・クラークが、国会のあるウェストミンスター宮殿南側の君主の入り口の中で、女王のお越しを待ち受ける。大法官は手に「女王の財布」と呼ばれる50センチ四方ほどの大きさの薄いバッグを持っているが、この中には、「女王のスピーチ」と呼ばれる政府の法制化プログラムに関するスピーチの原稿が入っている。これはB5判サイズぐらいの薄いブックレットのようなものだ。

女王が夫君のフィリップ殿下と馬車に乗って国会に近づいてきた。オーストラリアン・ステート・コーチと呼ばれる馬車である。近衛騎兵隊が随行してきている。また、国会西側の道路を隔てた反対側には、赤い上着と黒い熊毛の帽子をかぶった近衛兵が整列している。

女王は、11時15分に到着した。軍服を着たフィリップ殿下が先に馬車を降り、女王に手を差し伸べて女王が降りた。女王は白い厚手のコートを着ている。フィリップ殿下がそのコートの襟に手をやり、上に押し上げるのを助けた。

国会の建物の上には、女王がウェストミンスター宮殿内にいるということを知らせる旗が揚げられている。

女王とフィリップ殿下は、下院のリーダーのジョージ・ヤングや大法官に先導されて、階段を上がった。かなりの高さの階段である。86歳の女王と、この6月に91歳になるフィリップ殿下には大変なのではないかと思われた。それでもゆっくりと難なく上がられた。そしてお召し替えの部屋に向かわれた。

一方、下院議長が下院に向かう。警視が「脱帽!」と指示して、下院議長ジョン・バーカウが議場に向かう。そのガウンの裾を御付の人が持っている。先導者から一列の行進である。議場には、デービッド・キャメロン首相や対立政党の労働党党首エド・ミリバンドをはじめ多くの下院議員が待っている。

女王の用意ができて、ファンファーレが吹かれる。フィリップ殿下が女王の手を引いて上院(貴族院)議場に向かう。女王は、王冠を被り、長いガウンを着ている。その後ろには4人の男の子がガウンの裾を持って従う。侍女らが続き、その後を、軍のトップらが従う。

女王が上院議場の女王座に座り「お座り下さい」と言うと、フィリップ殿下は女王座の横の王座に、そして上院議員が椅子に座った。

黒杖官(ブラック・ロッド)が下院議場に向かう。その面前で、議場の扉がバーンと閉じられる。これは下院の独立を象徴する儀式である。そしてその扉を黒杖官が持つ杖で、バーン、バーン、バーンと3度ついた。その扉には、その杖でついた跡が残っている。

扉が開いて、黒杖官が中に入る。そして、「女王陛下が、直ちに貴族院に出席するよう命じられました」と言う。下院の守衛官がメイスと呼ばれる職丈を取りあげ、下院議長について、黒杖官の後を上院に向かう。

その後を、首相と労働党党首が和やかに話しながら続き、副首相と労働党副党首、そして大臣とその影の大臣ら、そして他の下院議員たちと続く。

下院議長と首相ら下院議員が、上院に入り、女王座とは反対側の入り口の周辺に立っている。上院は、ローブを着た上院議員で一杯である。

大法官が女王座に向かって階段を一段ずつ上がり「女王の財布」の中から「女王のスピーチ」を取り出して女王に渡す。それを女王が座ったまま読む。

「私の大臣たちの最優先事項は、赤字の削減と経済の安定の回復である」と読み上げ、15の法案と4つの草案の概略を述べた。これ以外のものも提出されるだろうと最後に言い、政府がさらに法案を提出できるようにしておく。このスピーチは、政府が書いたもので、閣議で承認されたものである。なお、5月3日の地方選挙で保守党・自民党が大敗を喫し、それ以降、女王のスピーチを書き直したという憶測が流れたが、女王のスピーチはそれ以前にできており、その憶測は正確ではないとBBCの記者が述べている。

女王がスピーチを読み終わると、それを大法官に渡し、それを「女王の財布」に入れる。

フィリップ殿下が女王の手を取り、女王が左右に軽く会釈して出口に向う。11時45分くらいであった。

ロイヤルギャラリーを通過してお召し替えの部屋に向かう。フィリップ殿下は女王の手を取っている。ロイヤルギャラリーでは、全員が起立している。

下院議員は下院議長を先頭に全員下院に戻る。守衛官が職丈を戻す。

女王は、着てきたコートに着替え、ファンファーレの後、馬車の待つ国会の入り口に向かう。階段を下りた。フィリップ殿下が先に馬車に乗る。そして11時55分ごろに馬車が出発した。

王冠が運ばれてきた。まず、4人が馬車に乗り込み、それに王冠が渡された。この馬車が出発した時、ちょうど国会の時計塔、ビッグベンがボーンボーンと正午の時を告げた。

2012年5月8日

マニフェストの約束を機械的に実施することの危険性(Dangers to carry out Manifesto pledges without thinking)

5月3日に多くの市などで地方議会選挙が行われた。それと同時に、政府の指示で、イングランドの10の大規模市で「選挙で選ばれる市長制」を導入するかの住民投票が行われた。この10市のうち、選挙市長制の導入を決めたのはわずかブリストルの1市だけで、他の9市ではノーだった。

特にその中でも、ノッティンガム市の1つの区では、投票率がわずか8.5%と極端に低かった。市全体では23.9%だったが、政府の「熱意」と裏腹に住民の無関心さを示している。政府は、これをビッグソサエティの一環として位置付けていたが、全くの空振りに終わった。

ビッグソサエティに関連しては、11月15日に42警察管区の警察・犯罪コミッショナーの選挙もある。この日には、上記のブリストル市での市長選挙があるだけで、他の選挙は予定されていない。そのため、投票率が非常に低いものとなる可能性がある。投票率が低すぎると、制度そのものへの信頼性が薄らぎ、しかも「望ましくない人物」が当選する可能性が大きくなる。この選挙を実施することで、政府への信頼がさらに大きく揺るぐ可能性がある。

政府の「選挙で選ばれる市長制」もこの「選挙で選ばれる警察・犯罪コミッショナー制」のいずれも2010年5月の保守党と自民党の「連立政権合意」に入っている。これらはいずれももともと保守党の2010年マニフェストに含まれていたものだ。

マニフェストに、単なる思い付きで、あまり真剣に検討していないものを入れること自体、大きな問題だが、マニフェストで約束したことを機械的に実施しようとする立場のほうがさらに大きな問題だ。政治家も行政ももっと深く考え、知恵を絞る必要がある。

2012年5月6日

ジョンソン・ロンドン市長のキャメロン首相への脅威(Boris will be a threat to Cameron)

保守党のボリス・ジョンソンが、5月3日の地方選と同時に行われたロンドン市長選で労働党の元市長ケン・リビングストンを破り再選された。キャメロン首相率いる保守党は地方選で大敗北を喫したが、労働党の強いロンドンで、大勢に逆行して勝利を勝ち取った。

キャメロン首相は、地方選の大敗の中で、ジョンソンの当選を大きな光のように扱った。しかし、恐らくこれは逆だろう。ジョンソンは、キャメロン後の保守党党首になる希望を持っている。そのため、これから次の保守党党首の座を目指し、自分のプロフィールをさらに上げようとすると思われる。そして、キャメロン首相や連立政権が落ち目になればなるほど、ジョンソンは自分の立場の違いを浮き立たせようとするだろう。その結果、キャメロン首相の目の上の大きなたんこぶになる可能性があると思われる。(なお、5月6日のサンデータイムズとメイル・オン・サンデーでキャメロンとジョンソンの党首としての比較の世論調査をしている。参照:http://ukpollingreport.co.uk/)

保守党の中には、落ち目のキャメロンに見切りをつけ始めている人がいる。一方、ジョンソンのスター性に注目し、保守党を救う人物として見なし始めている。ジョンソンは、キャメロン政権外の人物であり、統制できない上、ジョンソンの行動は「ロンドンのため」と言えば正当化されうる。一方、ジョンソンは保守党市長であり、無碍に扱えない。キャメロンが強ければともかく、かなり弱体化した今では、もしジョンソンが当選しなければ、キャメロンには、この面からの脅威はなかっただろうと思われる。

背景について触れておきたい。まず、ロンドンでは労働党が強いということだ。ロンドンには下院議員の選挙区が73あるが、その内、労働党下院議員が38人、保守党の下院議員が28人である。また、ロンドン市長選と同時に行われたロンドン議会議員選挙では全25議席のうち前回の2008年から労働党が4議席増やして12議席を獲得したのに対し、保守党は2議席減らし9議席だった。議会議員選挙では、小選挙区比例代表併用制が取られており、14議席の小選挙区での投票に併せて、ロンドン全体で党へも投票する。そして、各政党のリストに基づき11議席が割り振られる。ただし、その割り振りには各政党が既に小選挙区で獲得した議席が計算に入れられる。党への投票は、労働党41.1%(前回より13.1%アップ)、保守党32%(5.4%ダウン)で、ロンドンの保守党に大きな逆風が吹いている中、ジョンソンは勝利を得た。つまり、ジョンソンは、保守党支持層だけではなく、労働党も含め他の政党へ投票した有権者からの支持も受けて当選した。ジョンソンの当選した理由には、労働党のリビングストンに税金問題などでネガティブなイメージがあったこともあるが、有権者がジョンソンにスター性を見出したことがある。つまり、ジョンソンは面白い人物だ、との評価を受けた。

選挙期間中、ジョンソンは、キャメロン政権とは政策の面でも関係の面でも距離を置こうとし、選挙運動中にキャメロン政権の大臣が顔を出すことを避けようとした。再選された後、ジョンソンは、ジョークで「キャメロンに推薦されたにもかかわらず当選した」と言ったが、これには本音が出ていると思われる。

なお、選挙期間中、ジョンソンの怒りっぽい性格などが明らかになった。また、緑の党のロンドン議会議員で、リビングストン元市長の下で副市長を務めたこともあるジェニー・ジョーンズが討論会で「ボリスに市長ができるなら私にもできる」と発言したが、ジョンソンの行政の長としての能力には疑いがある。ジョンソン周辺からもそのような話が出ていると言われる。保守党の党首としての適格性には疑いがあるが、本人やその支持者には、そういう適格性の問題は、今は問題ではないだろう。

今後の政治の動き次第でジョンソンの政治行動は変わるだろうが、当面の方針は、2015年に予定される総選挙で下院議員となり、2016年まで市長と兼職することだろう。(この兼職は何ら問題がなく、実際、ケン・リビングストンは2000年に市長に当選したが、2001年の総選挙まで下院議員でもあった。)ジョンソンは市長の任期4年を務めると発言しているが、もし、次の総選挙で保守党が過半数を占めることができなければ状況は変わるだろう。

2012年5月5日

アイデアだけでは不十分(Coalition Government’s Mistakes Will Haunt Them)

5月3日の地方選挙が終わった。労働党が1996年以来という成功を収め、党首のエド・ミリバンドが威信を得、一時危ぶまれていたリーダーとしての地位を確保したのに対し、連立政権を組む保守党と自民党が大きく議席を失った。しかし、今回の選挙で最も注目すべきは、同時に行われた、選挙で選ぶ市長制を導入するかどうかを問う住民投票だったと思われる。

政府は、昨年11月に制定したローカリズム法で、11の大規模地方自治体に、選挙で選ぶ市長制を導入するかどうかの住民投票を義務付けた。このうち、リバプール市は、この法の施行前に住民投票なしで選挙市長制の導入を決め、5月3日に市長選挙を実施し、労働党の候補者が市長となった。(なお、この他、サルフォード市で市長選がおこなわれ、労働党の候補者が市長に選ばれた。一方、ドンカスターで、選挙で選ばれた市長と市議会の多数党との関係悪化で、選挙市長制を廃止するかどうかの住民投票が行われたが、選挙市長制を維持することとなった。)

問題は、リバプールを除いた後の10市の中で、わずかにブリストル市のみが選挙市長制にイエスで、後はノーとなったことだ。いったい何のための義務付けだったのだろうか?確かに、長期的に見れば、選挙できちんと選ばれた市長は、市の先頭に立って、責任を持って市政を預かり、強力なリーダーシップを発揮できる可能性があり、政府が地域振興の引き金にしようとしたことは理解できる。しかし、これらの市の意向や動向も十分に理解しないまま、むしろ理解しようともしないまま、この方向に走り出してしまった政権担当者=政治家にその責任があると言える。

このような失敗は、現政権には数多い。例えば、NHS改革法だ。既存システムの中間層を省き、現場のGP(家庭医)のグループにNHS予算を落とす制度を作り、そこに責任を持たせる仕組みだ。アイデアはよくわかる。しかし、問題は、そのような改革が簡単にできるかどうかだ。特に医師会や看護婦会、さらにGP会まで反対しているのに、この改革法を押し切って成立させた。

さらに大学の学費の問題だ。英国では、2校を除き、他のすべての大学が国立大学だが、これまでの最大限3290ポンド(43万円)までの年間学費から、それを一挙に9千ポンド(120万円)まで認めることにした(イングランド)。ところが、政府は、ほとんどの大学はそれよりかなり低い水準の学費にすると「期待」していたのに対し、ほとんどの大学は、上限、もしくはそれに近い水準の学費とした。いったい政府は何を考えていたのだろうか?

ヒースロー空港などの入国審査でEU外からの人たちの中には3時間待たされた人たちがおり、大きな問題になっている。これは、2010年からの財政カットのために8900人の部門からこれまでに800人程度人員が削減されている上に、内務相とこの部門の前責任者の間でいざこざがあり、内務相が面目を保つために、すべてのチェックをきちんとするよう指示されているためだ。驚くのは、現場の人たちのことを考えずに、上から指示すればそれで物事が動くと考えている人がトップにいることだ。

また国防省の空母艦載機の判断だ。現政権誕生後まもなく、他のタイプの方が安価でしかも機能が上回っている、と前政権を強く批判し、艦載機を他のタイプに変えた。ところが、そのために使われる離発着のシステムは未だに開発中で、実用化の時期に不安があり、しかも軍の方から前のタイプの方が機能的にもふさわしいとアドバイスされ、これも判断を覆さねばならない状態だ。

現政権の判断の多くは「机上の空論」からきているものが多いように思われる。アイデアとしてはよいかもしれないが、それが実施できるかどうか慎重に検討されているかどうか、現場や当事者の意見が反映されているかは二の次となっている。このような失敗は、この政権の将来を危うくするだろうと思われる。

2012年5月3日

オムニシャンブルズ(Omunishambles)


キャメロン首相は、3月21日の予算発表以来、オムニシャンブルズという状態に陥っている。これは、何もかもが滅茶苦茶でうまくいっていないという状態を指す言葉である。

この言葉は、現在の状況を強調的に表現したもので、問題をそれぞれ個別に見ると、必ずしも大きな問題とは言えないように思われる。しかし、小さな問題が重なり、しかも絶え間なく出てくるということになると、それは政権担当者の能力に問題があるのではないかという疑念を生むようになる。そしてそれが次第に確信に変わっていく。そのような非常に危険な状態にキャメロン政権はあると言える。

これらの問題の大きな原因の一つは、所得税の最高税率を50%から45%に下げたことだ。これは来年4月から実施されるが、多くの国民にとっては、それが来年であろうが今年であろうが関係なく、政府は金持ち優遇という印象を持った。政府は、この政策をきちんと説明できるという自信を持っていたようだが、国民はこのことと自分たちの生活に直接関係のある「小さな問題」に関連づけ、不公平だと感じた。これがオムニシャンブルズの一つの背景である。

どのような問題がオムニシャンブルズと見られているか概括する。

1.「おばあちゃんタックス」批判:来年度から年金受給者への税の特別控除を徐々に減らす。また、来年度からの新しい受給者には、税の特別控除はない。

2.ガソリンパニック:ガソリンやディーゼルオイルをガソリンスタンドに運ぶタンクローリーの運転手がストライキに賛成した。これを受けて、政府は具体的にストライキが計画される前に、これらの燃料をジェリ缶(灯油缶)で買いだめしておくようにと勧めた。その結果、直ちにパニック買いが始まった。消費者の中には、ガソリンスタンドでガソリンが買えず、車のタンクが底をついたので、ジェリ缶のガソリンを他の容器に移し替えようとした人がいた。たまたまそれが台所で調理中だったために、引火し、大やけどを負う事故も起きた。政府がパニックを起こしたと批判された。

3.「チャリティタックス」批判:裕福な人たちの税回避を防ぐために税控除制度を制限しようとしたが、その結果、慈善事業に大きな影響が出ることが表面化し、大きな批判を受けた。

4.「パスティゲート」:コーニッシュパスティなどのパイなど温めて販売する食べ物にVAT(日本の消費税に相当)を20%かけることとしたが、消費者から総スカンを食らった。その上、キャメロン首相がパスティが好きで、買って食べたと言って、その駅名まで名指しした。ところが、その駅の店はそれより5年も前に閉店されていたことがわかり、キャメロン首相が買ってもいないのに買ったと言ったのではないかという疑いが生まれた。そのために、これは「パスティゲート」であり、「パスティタックス」ではない。

5.「キャラバンタックス」批判:移動式住宅にVATをかけることとした。このため、2千人が失業すると攻撃された。

6.「チャーチタックス」批判:文化財指定建造物の修復改造にVATをかけることとしたが、教会建物に最も影響が出ることがわかった。

7.イスラム教過激説教師強制送還問題:ヨルダンへの強制送還を下院で意気揚々と発表した内相が、欧州人権裁判所の上訴期限を一日誤っていたようで、この強制送還が可能になるまでにはまだかなり時間がかかることがわかった。

8.入国管理の遅れ問題:ヒースロー空港などで入国審査の待ち時間が非常に長くなる場合が出ており、政府の対応が遅れている。

9.文化相のBskyB問題:文化相が、メディア王マードック氏のBskyB買収の試みに便宜を図ったのではないかという疑惑が浮上した。この買収は、電話盗聴問題で取り下げられたが、キャメロン首相や担当の文化相がマードック氏の会社に非常に近いことが浮き彫りにされた。

10.リセッション:昨年第4四半期に続き、今年第1四半期もGDPがマイナス成長となり、正式に景気後退となった。政府の過度の大幅財政緊縮策が、成長を阻害しているのではないかとの批判を受けている。0.2%のマイナス成長は暫定値であり、見直されるとプラス成長となると見られているが、それでも既に政府の政策にダメージを与えており、見直されても後の祭りと言える。

英国国会での飲酒(Drinking by MPs in the Parliament)

英国の国会議員の飲酒は有名だ。もちろん飲まない人も多いが、飲酒については様々なエピソードがあり、それは過去何百年にもわたっている。3か月ほど前、労働党のスコットランド選出の下院議員が、国会のバーで飲み過ぎ、保守党の下院議員らに頭突きをし、逮捕された。この議員は、労働党を離党し、裁判で執行猶予刑を受けて、次の総選挙には立候補しないと発表した。しかし、この事件で改めて国会でのアルコール文化が浮き彫りになった。

この事件を受けて、下院の委員会で、国会内のバーのスタッフに、酔ったお客には、注文を断る、レセプションなどでは、注ぎ足す頻度を減らすなどのトレーニングをすることとなった。それとともに、ノンアルコールの飲み物の種類を増やし、アルコール度の低いビールを用意することとし、さらにバーの開店時間を見直すこととなった。いずれも妥当な対策と言えるが、これには基本的な要素が欠けているように思う。

それは、国会議員の自制と制裁である。近年の国会は、かなり状況が変わっている。過去20年ほどで大きく変わったと言われるが、ブレア政権下で下院のリーダーだったロビン・クックが国会改革を行い、審議の時間を変えた。また女性議員が増えたために、国会での飲酒文化はかなり改善された。しかし、それでも節度のある飲酒が国民の代表者である国会議員には必要だろう。

シャンペン好きで、ブランデーとジンを好んだウィンストン・チャーチルは、かつて海軍大臣を辞めた後、第一次世界大戦に自ら望んで軍人として行ったが、本部にいるより前線に出たがったと言う。命の危険が大幅に増したが、所属した大隊では本部でアルコールは飲まないが、前線では許されていたからだという。

チャーチルは「アルコールで失ったもの以上にアルコールから多くのものを得た」と言った人物であるが、「父が、酔っ払いを最も軽蔑するようにと教えてくれた」という。英国では、酔っ払いを顰蹙するが、それを許す風潮がある。しかし、国会議員はそれに甘えているわけにはいかないだろう。

2012年5月1日

BskyB問題と文化相(Culture Secretary Hunt and BskyB)

ハント文化相がBskyB問題をどのように処理したかが、過去一週間で最も大きな話題となっている。いったい何が起きたのか、ここでもう一度確認してみよう。

メディア世界で非常に大きな影響力を持つルパート・マードックのニューズ・コーポレーションが、39%の株式を持つ衛星放送会社BskyBを買収しようとした。これは、ニューズ・コーポレーションの世界戦略に関した動きで、年間売上60億ポンド(8千億円)で利益が10億ポンド(1300億円)に上る企業を傘下に収めようとしたこと以外に、英国内での他の部門との連携を強め、英国と欧州での地位を強化しようとしたと言われる。

キャメロン首相率いる保守党は、2010年5月の総選挙前に、英国で最も売れているサン紙の支援を受けた。この新聞はニューズ・コーポレーション傘下である。キャメロン首相らの保守党幹部はニューズ・コーポレーションに近く、そのBskyB買収のために便宜をはかったのではないかという疑いが出た。

BskyBの買収が成功すれば、ニューズ・コーポレーションが英国のメディアの中で支配的な地位を占めるのではないかとの危惧があり、他のメディアグループはこぞって反対していた。しかし、ハント文化相は、テレビを含む情報通信の監督機関Ofcomとの協議の結果、競争委員会に諮らず認める方針を示した。結局、この買収は、ニューズ・コーポレーション傘下の新聞紙の行った電話盗聴問題が大きくなったために、断念された。

ハント文化相には、この買収を認めるかどうかで大きな権限があったが、その行動が今回の問題の焦点となっている。電話盗聴問題の独立調査委員会で、ハント文化相のスペシャルアドバイザーとニューズ・コーポレーションとの間のEメールのやり取りが明らかになり、ニューズ・コーポレーション側が情報などの面で特別な取り扱いを受けていたことがわかった。そのために、ハント文化相が矢面に立つこととなった。

4月30日に、野党労働党の要求で、キャメロン首相は下院でこの問題について声明を発表し、質問に答えた。ハント文化相は「公平に公正に対応し、何ら落ち度がない」と繰り返し主張した。そしてハント文化相が電話盗聴問題の独立調査委員会で「宣誓して証言する、もし、そこで大臣規範に違反したことが明らかとなれば自分が行動する」と言ったのだ。しかし、労働党は、文化相は明らかに大臣規範に違反していると主張し、首相の答弁に満足していない。むしろ、首相は、ハント文化相を盾に使っていると攻撃した。

BskyB問題はもともとビジネス相の自民党下院議員ヴィンス・ケーブルが担当していた。しかし、これがハント文化相の担当に替わる。そのきっかけは、ケーブルの「失言」だ。

2010年12月にテレグラフ紙の記者が地元選挙民を装い、ケーブルの行っている地元民個別相談会で、様々な時事問題へのコメントを密かに録音した。その際、ケーブルは、この買収問題を情報通信の監督機関Ofcomに諮問したが、ケーブルのその決断は、「マードックへの戦争宣言で、われわれはこれに勝つと思う」と発言した。実は、テレグラフ紙はこの発言を当初発表しなかった。BskyB買収に反対していたため、ケーブルがこの問題を担当している方が好都合と判断したからだと思われる。しかし、何者かが、この録音をBBCの経済部長に渡したことからこの発言が明らかになった。これには、テレグラフ紙からニューズ・コーポレーション傘下のニューズ・インターナショナルに移った人物が関係していると言われる。

ケーブルの発言が明らかになるや否や、キャメロン首相は、ケーブルをBskyBの担当から外し、それをハント文化相に回した。ハント文化相は、BBCなどのメディアも担当している。問題は、後で発覚するが、ハント文化相は、かねてよりニューズ・インターナショナルに近かったことだ。しかし、ハント文化相は、自分が批判される可能性をよく理解しており、慎重にことを運んだ。それでもいくつかの盲点があり、それが今回の件で表面化した。

これからの展開は、5月中旬以降にハント文化相が、電話盗聴問題の独立調査委員会で宣誓の上、質問に答えることとなる。ハント文化相は、自分とスペシャルアドバイザーの間のEメールなどのやり取りをすべて委員会に提供するとしている。

この問題の背景を時系列でみると以下のようになる。
2007年5月 ニューズ・コーポレーション傘下のニューズ・オブ・ザ・ワールド元編集長アンディ・クールソンが野党時代のキャメロンの広報官となる
2010年5月 保守党と自民党の連立政権でキャメロン首相誕生
2010年6月 ニューズ・コーポレーションがBskyBの株式公開買い付けを発表。
2010年11月4日 ビジネス大臣(自民党)ヴィンス・ケーブルがこのBskyBの買収を英国の情報通信監督機関Ofcomに諮問
2010年11月18日 ジェームズ・マードックが、もし政府がこの買収を認めないようなら英国に投資せず、他の国へその投資を回すと発言。
2010年12月 欧州委員会がこの買収を承認
2010年12月21日 選挙民を騙ったテレグラフ紙記者への不用意な発言のためにケーブル大臣がBskyBの担当を外され、この件がハント文化相に回る
2010年12月31日 Ofcomはハント文化相に競争委員会に諮問する必要がある可能性を指摘
2011年1月21日 キャメロン首相の広報局長クールソンが電話盗聴問題に関連して辞任
2011年3月3日 ニューズ・コーポレーションがBskyBのニュース部門を分離することにしたことでハント文化相は競争委員会に諮問せずに認める方向を発表
2011年6月23日 Ofcomとニューズ・コーポレーションが条件合意との報道 
2011年7月初め ハント文化相 最終のヒアリングが終わり次第買収を認める意向
2011年7月4日から ニューズ・オブ・ザ・ワールドの電話盗聴問題が大問題化。その結果、Ofcomがニューズ・コーポレーションの適格性を問う。
2011年7月7日 ニューズ・オブ・ザ・ワールド廃刊発表
2011年7月11日 ニューズ・コーポレーションがBskyBのニュース部門分離案を撤回。ハント文化相が競争委員会へ諮問

2011年7月13日 全主要政党が買収に反対を表明。ニューズ・コーポレーション BskyB買収を撤回と発表

2012年4月26日 電話盗聴問題の特別調査委員会でハント文化相のスペシャルアドバイザーとニューズ・インターナショナルの対外交渉担当者の間のEメールが公開される。
2012年4月27日 ハント文化相のスペシャルアドバイザー辞職


大臣の行動規範(Ministerial Codes and a minister’s behavior)

文化・スポーツ・オリンピック大臣が「大臣の行動規範」に違反したのではないかという疑いが出ている。決定権限を持つ大臣のスペシャルアドバイザーが利害関係者と頻繁に接触し、様々な情報を提供したことがわかったが、大臣がスペシャルアドバイザーへの管理監督義務を怠り、また議会を欺いたのではないかというのである。

実はこれは表面的な議論である。キャメロン首相は、この問題を早く幕引きするか先送りにしたいと努力してきている。実際には、大臣とこの利害関係者との関係、キャメロン首相とこの利害関係者との関係、キャメロン首相の政治的判断など多くの不透明な問題を含んでおり、この問題はかなり深化する可能性を秘めている。ここでは、大臣の行動規範とスペシャルアドバイザーに簡単に触れておきたい。

英国の「大臣の行動規範」は、1980年代には既に存在していたと言われるが、それが公になったのは1990年代に入ってである。この行動規範は、首相の責任で出され、首相が責任を持つ。つまり、大臣が行動規範に反したかどうかを判断するのは首相である。

なお、スペシャルアドバイザーは、大臣を補佐するための特別国家公務員である。ハロルド・ウィルソン労働党政権で生まれたと言われるが、この職は、一般の国家公務員が政治的に中立の立場をとる必要があるのに対し、政治的な動きを担当するための存在だ。それぞれの大臣が任命するのであり、基本的に仕える大臣が職務を離れれば、同時に職務を離れることとなる。スペシャルアドバイザーの職務は、大臣に対してアドバイスすることで、国家公務員との関係には様々な制約がある。一方、国家公務員の中立性が次第に侵されてきており、大半の国家公務員はその職務の中立性を守ろうとしているが、一部にかなり政治的な動きをする人も出てきている。例えば、サッチャー保守党政権では、もともと国家公務員の広報官や、外交担当アドバイザーが、サッチャー首相に近づき過ぎ、本来の職務に戻ることが難しくなったが、その時代には、国家公務員の中立性は、現在よりもかなり強く保たれていたと思われる。しかし、近年は、スペシャルアドバイザーと国家公務員との垣根がはるかに低くなっている。むしろ、国家公務員の中に大臣らとの接触を好む人が増えているようだ。特に日本のキャリア組に相当するファースト・ストリーマー(制度はFast Streamと呼ばれる)にはその傾向が強いようだ。

なお、大臣規範では、大臣のスペシャルアドバイザーに対する責任は以下のように定められている。

The responsibility for the management and conduct of special advisers, including discipline, rests with the Minister who made the appointment. Individual Ministers will be accountable to the Prime Minister, Parliament and the public for their actions and decisions in respect of their special advisers.

一方、スペシャルアドバイザーに対しては、その倫理綱領があり、その中でも以下のものは今回に当てはまる。

They should not without authority disclose official information which has been communicated in confidence in Government or received in confidence from others.

これまでの例としては、運輸大臣のスペシャルアドバイザーの事例がある。9/11の際、誰もの注意がそれに奪われているので政府に不都合なニュースを発表するチャンスだと同僚に連絡した。また、ブラウン前首相のスペシャルアドバイザーが、偽情報を流して保守党の政治家を貶めようとしたことが発覚したことがある。ブラウン前首相は、この件で何度も謝罪した。いずれもスペシャルアドバイザーは辞職したが、大臣はこれらのことで辞職するなどのことはなかった。

2012年4月23日

「日本は今何をしなければならないのか?」その理念 (What Japan now needs to do)

デービッド・キャメロン首相は、いったい何をしたいのかわからないと攻撃されている。そこでトニー・ブレア首相のチーフ・スピーチライターだったフィリップ・コリンズが、キャメロン首相へアドバイスする記事を2012年4月20日のタイムズ紙に書いた。それに触発されて、ここでは「日本は今何をしなければならないのか?」の基本的な考え・理念を英国式に表現してみた。なお、マーガレット・サッチャーが首相となった1979年の総選挙のマニフェストの前文も参考にしている。

私たちは今この時を生きているだけではありません。現在だけではなく、歴史的な時間の流れの中で私たちのなさねばならないことを捉える必要があります。英国の思想家エドマンド・バークが「フランス革命の省察」の中で言ったように、わたしたちは、現在生きている人たちだけのパートナーシップを考えるのではなく、既に亡くなった人たちやまだ生まれていない人たちを含めたパートナーシップを考えて行かねばならないということです。つまり、現在生きている私たちが、過去から引き継ぎ、学んできたことの恩恵を感謝するとともに、将来へきちんと責任を持って引き継いでいくことが必要だということです。

私たちが今直面している課題には、昨年の東日本大震災と福島第一原発事故からの復興がありますが、最大の課題は、この国を再び健全な経済に立て直すことだと思います。国の債務が非常に大きく、巨額の財政赤字が恒常的になっています。これをきちんと立て直すことなしには、いかなる経済的な成長も脆弱なものとなると思われます。特に人口の少子化高齢化が急速に進んでおり、長期的にいかに健全な経済を維持できるかがカギとなると思います。

そのためには、あらゆる方策がとられなければなりませんが、その負担は、精神的なものを含めて、世代を超えて誰もが公平に背負う必要があります。皆が、それぞれの能力に応じて貢献していくことが大切です。そして、日本が健全な経済を取り戻し、再び繁栄を取り戻した暁には、それまでの苦労・努力が報われ、私たちの責任の一端が果たせると思います。その時は必ず来ると信じています。

しかし、健全な経済を取り戻すことが、すべての目的ではありません。健全な経済を取り戻したときに、きちんとした目的に基づいた成果も生まれている必要があります。イギリスで言えば、第二次世界大戦後に生まれたアトリー政権は、破産状態の国を抱えて、非常に厳しい緊縮策を実施しましたが、英国民が今もなお誇りにしている国民保健サービス(NHS)を生み出しました。サッチャーは、「欧州の老人」と呼ばれたように、国が機能しなくなるような労使関係を抱えていましたが、イギリスの経済を現代の世界で競争できるほどに立て直しました。

行政を含む公共セクターは、国がまかなえる中で最高水準のものを創り出していく必要があります。しかし、公共セクターでは、人口の高齢化、要求の多様化の中で需要が増大しており、これらに対応するためには、公共セクターが変わる必要があります。

教育では、全国には素晴らしい学校があり、素晴らしい能力を持った多くの教師の皆さんがおられます。しかし、子供たちの能力が最も大切な経済的・文化的な要素だということを考えると、教育の質を高める必要があります。

将来の繁栄をもたらすためには、私たちが変わる必要があると思います。もちろん、困っている人たちに手を貸すのは当然のことです。それが日本の美徳の1つでもあると思います。しかし、イギリスで見られる福祉国家は、もしアトリーが現代によみがえってきて、現状を見れば、恐れおののくようなものとなっているように思います。感謝を生まずに依存心と権利意識を生む制度へ成り果ててしまっているからです。こういう発想も変えていく必要があると思います。

世界で日本はまだまだ高く評価されています。しかし、日本は今や自信喪失に陥り混迷しているように見えます。この状態を見過ごしておくことはできません。私たちが再び名実ともに誇りを持てる国にするためには、現在の問題に長期的な視点から真っ向から取り組んでいくことが今を生きる私たちの責務であると思います。

2012年4月20日

自らを再び窮地に陥らせた内相(When cards are stacked against a politician.)

内相テリサ・メイが、再び大失敗をしたようだ。内務大臣のポストは英内閣の4大職の1つでメイは女性で2人目に内相に登用された人物である。オックスフォード大学出身で過去には保守党幹事長を務めたこともある。当初、内相の職を無難にこなしているように見え、キャメロン政権では業績を上げている大臣として一般に見做されていたが、その手腕にはかなり前からクエスチョンマークがついていた。それが昨年、国境管理を巡る問題で、白日の下となった。メイは、事実関係を十分確認する前に、下院の内務委員会で国境管理の責任者である国境局幹部を痛烈に攻撃した。そのため、既に停職処分を受けていた責任者は、職務に留まることはできないとして辞職し、「推定解雇」で労働裁判所に提訴した。この訴訟では、この元責任者が勝つのは間違いないと見られていたが、この3月に示談が成立した。もし、裁判で事実関係が争われていれば、メイ内相らの失態の詳細が公になっていた可能性が大きい。

メイ内相は、今回も上記の問題と同じミスを犯した。今回は、アル・カイーダのオサマ・ビン・ラーデンの欧州での右腕と呼ばれていた人物、アブ・カターダに関わる事件である。カターダを国外退去処分にするため歴代の内閣が努力してきており、送り先のヨルダンとの間で拷問にはかけないとの約束を取り付けていた。欧州人権裁判所はその約束は有効だと認めたが、カターダをヨルダンに送り戻すと、他の人物から拷問で入手した証拠を基に裁判にかけられる可能性があるとして、許可しないという判断をした。そこで、メイ内相が自らヨルダンに赴き、その点での確約書を取った。そして欧州人権裁判所の判断へのカターダ側からの上訴期限が過ぎたと判断するや、国外退去処分の手続きを進め始めた。

この場合も、上記の国境管理の責任者の場合と同じで、「事実関係を十分に確認する前に行動した」。メイ内相らの考えていた上訴期限の日が、一日ずれていたのである。つまり、メイ内相が国外退去処分の手続きを進め始め、容疑者を収監した後、欧州人権裁判所に上訴が提出され、欧州人権裁判所がそれを受理した。この上訴が期限後だとして退けられる可能性はゼロとは言えないが、専門家の見解では、期限内だという。

メイ内相にとって大失敗であったのは、下院で、上訴期限が過ぎたため、容疑者を収監し、国外退去が間もなく行われると、勝ち誇って報告したことだ。その翌日、下院でメイ内相が、政府の上訴期限に対する判断は正しいと主張したが、その判断の根拠を示せと言われると何も出せなかった。むしろ明らかになったのは、あるジャーナリストが欧州人権裁判所に連絡を取った後、その期限の見解を内務省に問い合わせていたことだ。

メイ内相のこの失敗には、いくつかの政治的な背景もある。国境管理の問題で、自分の不手際で大きな失態を引き起こしたメイ内相が自分の失地回復を図ったことがまず挙げられるだろう。次に3月21日の予算発表以来、税問題で叩かれ、しかもガソリンスタンドでのパニックを政府が引き起こしたなどとの非難を受けて、大きく国民の支持を減らしているキャメロン政権のこれ以上の後退をストップさせようとしたこともあると思われる。

問題は、メイ内相は、同じような失敗を繰り返していることだ。しかも今回は、キャメロン政権の支持率が大きく下がっている中で、さらにキャメロン首相に大きな打撃を与えることになった。内務省は、確かに極めて難しい省だ。歴代の内相が苦労してきている。しかし、自分の過去の失敗から学ぶことのできない、能力に疑問のある人物が、こういう重職に居座ることはキャメロン首相にとっても大きな問題だろう。能力に疑問のある大臣が内閣全体の評判を落とすことは何も日本に限ったことではない。


2012年4月13日

英国外の政治家の納税申告書公開動向について(Other Countries’ Tax Return Disclosure)

2012年4月13日のタイムズ紙でHeather Brookeが政治家の納税申告書公開の状況についていくつかの例を取りあげているので紹介しておきたい。

 インドでは、2002年の高等法院裁決で、すべての国会議員候補者はそれぞれの配偶者、扶養家族も含めて、すべての資産、学歴、容疑も含めた犯罪歴を公開するよう義務付け、これらはオンラインで閲覧可能である。

 スカンディナビア諸国のスウェーデン、ノルウェー、フィンランドでは、政治家だけではなくすべての人のものが公開される。

 世界銀行と不正資産回収(StA)イニシアティブの調べたところによると世界中の137の裁判権下で政治家に資産公開義務があるという。
参照:http://www1.worldbank.org/finance/star_site/publications/Public-Private-interest.html

 また、国際連合腐敗防止条約では、すべての公職にある者の公職以外の行動、雇用、投資、資産、かなりの贈り物や便益についての公開を求めている。
参照:http://www.unodc.org/unodc/en/treaties/CAC/

2012年4月12日

政治家の税金公開(Politician’s Tax Disclosure)

英国のトップ政治家がどれくらいの税金を払っているか公開する動きが強まっている。アメリカの共和党大統領候補であるミット・ロムニーが、迫られて自分の税金額を公開したことに例えられて、「アメリカ化」とも言われている。

この動きの原因は、5月3日に行われるロンドン市長選だ。ロンドン市長選は投票日が近づき過熱してきたが、過熱の原因は必ずしも政策ではない。スキャンダルでもない。それは主要候補者の税金のためだ。そしてその結果、閣僚はじめ、その他の政治家まで影響が出る状況となっている。もちろんこれは歓迎すべき動きだろう。例えば、ノルウェーでは政治家の税金を公表するのは当たり前のことだと言われる。

しかし、これに至る経過を確認しておきたい。この問題のそもそもの原因は、保守党の候補で現職のボリス・ジョンソン(47歳)の支援者やジョンソンを支援するマスコミが、その対立候補の労働党の候補者で2000年から2008年の間市長を務めたケン・リビングストン(66歳)が自分の稼いだお金を設立した会社に払い込んで「節税した」と攻撃したことだ。リビングストンがアフターディナースピーチ(英国ではかなり需要がある)やラジオ、テレビなどに出演して稼いだお金を会社に入れ、自分を会社の役員とし、会社から報酬と配当を受け取る形としていることだ。これなら小企業のその会社にかかる税金は20%である。もしすべての収入を自分の所得とすれば、2010年度の場合、37,400ポンド(約500万円)以上の収入には40%の所得税がかかる上に、その収入に応じて国民保険を払う必要がある。役員としての報酬や配当などの収入にも税がかかるが、かなりの節税となる。しかし、これは完全に合法である。特にリビングストンは自分の稼いだお金で会社に3人雇用したと言っており、人を雇うために会社を設立するのは当たり前と言える。

問題は、リビングストンがかつて金持ちの節税を批判したことがあることだった。そのために、リビングストンは言うことと、することが違うと攻撃されたのである。ジョンソンの陣営らの関係者は、リビングストンを攻撃し、その信用を貶めることが目的であったが、これは大きな問題に飛び火したと言える。

まず、ロンドンのラジオ局での主要4候補討論会で、リビングストンが、ジョンソンも市長になる前に設立した会社で同じようなことをしたと発言した。ジョンソンは「節税目的で会社を設立したことはない」と主張し、リビングストンは嘘つきだと攻撃した。その後も激昂して、直接本人に面と向かって同じことを繰り返したとされる。

その後、他の討論会で主要4候補がそれぞれの収入と税金額を公表することに合意し、発表した。リビングストンのものでは、自分がその会社から受けた報酬額や配当額、そして会社の支払った税金額はわかるが、その妻が会社の役員であり、その妻の分なども明らかにならなければ全体像ははっきりしない。リビングストンは、自分の妻も含めての収入と税金額は、ジョンソンや他の候補者も発表すれば、公表すると主張した。

ジョンソンは恐らくそこまでするつもりはないだろうと思われる。英国では妻などの名義を使って様々な税対策をしていることはよくあることだ。ジョンソンの発表したものを見ると、過去4年間で170万ポンド(約2億2千万円)とかなり多くの収入を得ており、資産もかなりあると思われるが、誰もが知っている主要な収入以外、計上されているのは利子として538ポンド(約7万円)だけである。

この点で話題となったのはオズボーン財相だ。財相として年俸約13万5千ポンド(約1800万円)を受け取っているが、他からの収入を含めた年収は15万ポンド(約2千万円)以下だと発言した。オズボーンは、百万長者であり、その上、家も貸していることからその家賃収入を考えると、15万ポンドを超えているのは間違いないと見られている。つまり、オズボーンは何らかの形で妻フランシスの名義を使っているのではないかとみられていることだ。ジョンソンも同じようなことをしている可能性がある。

オズボーン財相が3月の予算で来年度から15万ポンド以上の所得税を50%から45%としたこと、このロンドン市長選の問題、それにかなり多くの数の公務員ら(国家公務員、地方公務員、それにBBCなども含む)の給料が源泉徴収ではなく会社払いになっていることが明らかになるなどいくつかのことが相俟って、政治家がどの程度の税金を支払っているかに注目が集まった。特に、キャメロン政権では閣僚の多くが百万長者だ。その税金の詳細が白日の下にさらされれば、現政権が庶民感覚からかけ離れていることが示される可能性がある。

オズボーン財相は、自分のものを発表するのは問題がないし、閣僚らの税金の公開については「検討する」と答えた。キャメロン首相は自分のものを公開するのにはこだわりがないと発言している。ただし、これで、閣僚全員が公開することとはならない。既に、予算を左右できる立場のトップ政治家のみのことだと限定する声が保守党内で強くなっている。一方では、保守党の党首選でキャメロンに敗れたデービッド・デービスのように、もし公開するのなら、資産や将来の遺産なども含めてすべてを公開すべきだ、という見解もある。

面白いと思われるのは、「これで誰もが公開せざるを得なくなると、優秀な人たちが政治家になろうとしなくなる」とか、「収入や税金は、個人のプライバシーに関することだ、それを守ろうとしないような政府に個人のプライバシーが守れるのか」という議論があることだ。しかし、潮流は、公開の方向だ。

2012年4月4日

有権者は何に興味があるか?(What Interests Voters)

ある世論調査によると、最近最も注目を集めた三つの政治的な出来事の中で、有権者が最も関心を示したのは、以下の順だった。

1.4分の3の人「おばあちゃん税(年金受給者の中により多くの所得税を払うことになった人が出る税制変更)」
2.3分の2の人「パスティ税(店で買う温かい食べ物、パイやパスティなどにかかる新税)」
3.2分の1の人「保守党に巨額の政治献金をした人が首相官邸のアパートで首相と食事」

面白いのは、有権者は一般に政治スキャンダルの詳細には関心がないことだ。政治献金については、4分の3の人が、「政治献金はいくらでもいいが、詳細は発表すべき」と言い、「大きな政治献金を禁止して、国が政党補助をすべき」という考えには4分の3の人が反対している。

政治家の考え方と有権者の見方はかなり違うようである。

この世論調査はアッシュクロフト卿の行ったものである。億万長者のアッシュクロフト卿は、保守党の有力支援者であり、かつては副幹事長として保守党の数々の選挙に直接携わった。2005年並びに2010年総選挙での保守党への貢献は非常に有名だ。アッシュクロフト卿は、世論調査に依頼して世論調査をかなり頻繁に行っている。ここで引用した世論調査は以下のウェブサイトに出ている。これは、別の世論調査会社YouGovのメンバーで、ウェブサイトUKpollingreportを主宰するAnthony Wellsによるとタイムズ紙が使っているPopulusの行ったものだという。
http://www.lordashcroft.com/polling/03042012_lord_ashcroft_publishes_party_funding_poll.html

2012年3月30日

キャメロン首相就任以来最悪の週(The Worst Week for Cameron)

どの政治家にもこのようなことが起きるといえる。問題が一挙に吹き出ることだ。キャメロン首相は、労働党首相だったハロルド・ウィルソンの言った「政治では1週間は長い」言葉が実感していると思う。

2週間ほど前には、訪米したキャメロン首相をオバマ大統領が丁重にもてなし、キャメロン首相の威信が増したと見られた。ところが、先週の予算で、年金生活者からお金を奪ったと言われ、「おばあちゃん税」と名付けられ大きな批判を浴びた。

そして先週末の「巨額の政治資金で首相に面会」暴露事件だ。首相官邸の上の首相が家族と住んでいるアパートへ招待したゲストリストは発表しないとしていたがマスコミからの圧力に屈し、結局発表。

その上、コーニッシュパスティやパイなどの温めた食べモノへVATをかける「パスティ税」を正当化しようと首相自らがパスティを食べたと言ったが、ウソだと発覚。

またタンクローリーの運転手たちがストライキに賛成したことからストライキの日も決まっていないのに国民に車のガソリンタンクを満杯にする、ガソリンやディーゼルオイルなどを予め買っておくようにとアドバイスしたことからパニック買いが始まった。当初政府はジェリカン(灯油缶と同じ)で買いだめしておくようにと勧めたが、消防などからそれは危険だといわれ、そのアドバイスを取り下げた。ところがモータリストは、ガソリンタンクを満杯にした上、ジェリカンでも買っている。そのため、ガソリンスタンドには長い行列ができ、しかも売り切れのガソリンスタンドが次から次に出ている。マスコミは、これを政府が自ら引き起こしたパニックだと政府を批判。

この中、世論調査では、野党の労働党が支持率で、キャメロンの保守党に10ポイントの差をつけている。3月30日にわかったYouGovの世論調査によると、保守党34%、労働党44%、そして自民党8%。YouGov以外でもComResも数日前に労働党の10ポイントリードを記録している。ComResの場合、これほど労働党がリードしたのは2005年以来だという。

2012年3月23日

理屈ではいかない税(Effects of Budget)

3月21日の予算発表とその反応から言えることは、税金は必ずしも理屈だけでは判断できないということだ。

オズボーン財相の予算は、法人税の引き下げなどビジネス志向として評価を受けた反面、二つの税金の問題で非常に強い批判を受けている。それは、最高税率を来年4月から50%から45%に下げたこと、それに年金受給者の控除を凍結したことだ。

最高税率の問題は、年収15万ポンド(1950万円)を超える部分にかかる税率であり、政府としては、他の先進国と競争するためにも、下げたいという意向を持っていた。ただし、財政再建に取り組んでいる最中で、低中所得層が直接影響を受けている中、この税率を下げることは、金持ち優遇だという批判が出ることが予想され、政治的に難しいことは当初から十分に分かっていた。しかし、この最高税率から得られる税収入は、その得失を計算すれば極めて小さいという報告書が出され、しかも200万ポンド(2億6千万円)以上の住宅を買う際には7%の印紙税をかけ、節税策を取り締まり、さらに課税最低限度枠の大幅アップで理解が得られると判断していたようだ。この判断は誤っていたようである。

一方、年金受給者の控除の凍結に関しては、今まで65歳以上の年金受給者は不利な扱いは受けておらず、シンクタンクや新聞の中には必要な措置で妥当だと評価する声がある。しかし、これは「おばあちゃん税」としてマスコミで大きく取り上げられ、不公平な税だと一般に見られている。

特に重要なのは、この二つを結び付けて、金持ち優遇のために、年金生活者のおじいさん・おばあさんが不当な扱いを受けているという印象を与えていることだ。

野党労働党は、オズボーン財相の予算を「百万長者の予算」と名付け、上で述べた印象を機会があるたびに訴えている。政府は、今後かなり長い間これに振り回されることになるだろう。

2012年3月21日

財相のマジック(Osborne pulled out a Rabbit)

予算発表は、英国では非常に重要な日だ。この日に、これからの予算と税が発表されるからだ。英国では、税金、特に所得税がどうなるかは誰もが注目している。

今日の財相の予算発表では、予想通り、所得税がかかり始める金額の課税最低限度額が上がり、一方では、所得税の最高税率が下がることとなった。課税最低限度額は、2011年度は7475ポンド(97万円)だが、それが2012年度は既に8105ポンド(105万円)に上がることが決まっている。これをさらに2013年度に9205ポンド(120万円)に上げることを発表した。所得税の最高税率である50%は現在15万ポンド(1950万円)以上にかかっているが、これが2013年4月から45%となる。

事前に問題となっていたのは、課税最低限度額を引き上げの結果手取りが増えることよりも、高所得者の所得税が下がることへの不公平感であった。これを拭い去ろうという試みがこの予算に入っている。

財相が行ったのは、まず、国税当局にこの税率変更で具体的にいくら税収が減るか試算させることであったが、驚いたことにこれはわずか1億ポンド(130億円)だと言う。この計算は2010年に設けられた、独立機関である予算責任庁(OBR)も認めたものであると言われるので信用性の高いものと思われる。

さらに、200万ポンド(2億6千万円)以上の住宅には、7%の印紙税がかかる。これは、今晩12時から適用される。もし、企業を通じて買う場合には、この印紙税は15%に上がる。これは、企業を通して買う方法を取り締まる方針と事前に発表されていたが、それでも抜け道があるとの論評に反応したものと思われる。

その上、2013年度から反税金逃れルールが導入されることとなった。

一方では、法人税が2011年度の26%から2012年度は予定されていた25%を越えて24%とし、さらに2014年までに22%へと下げると発表された。

これらの施策が有権者の支持を受け、高所得者への減税を黙認するかどうだろうか?

さらに大きな問題として子供手当の問題があった。これは中所得者に大きな打撃を与えると見られていたが、これも当初の42,475ポンド(552万円)以上の所得の人には支給しない方針が、予算発表で、5万ポンド(650万円)以下の人には支給され、それを超える人は100ポンドごとに1%ずつ減り、6万ポンド(780万円)以上の人のみが受給できないこととなった。

要は、これらの措置を講じても、2014年度に政府債務はGDPの76%をピークに下がり始め、財政赤字は、今年度の1260億ポンドから2016年度には210億ポンドまで下がると言う。また、失業も今年の8.7%を最高に下がり始め、インフレも今年の2.8%から来年は1.9%に下がると言う。つまり、政府の財政緊縮策は効果的に働いているというわけだ。

もちろん、所得税のかからない額までの収入を得ている人には課税最低限度額のアップは意味がなく、むしろ、社会福祉手当の大幅カットで大きな影響を受ける。また、今後の年金受給者には、事実上のマイナスとなるなど問題がないわけではない。しかし、今回の予算発表は、オズボーン財相が「マジック」を発揮したといえるものであった。

2012年3月19日

政府予算の政治(A Tweaked Budget and its Political Process)

この3月21日には、政府の予算が発表される。英国では予算の内容は、基本的に予算発表まで明らかにされないことになっているが、それが漏れ伝わってきたり、また、今回のようにその内容の一部を財相が公然と発言したりすることもある。しかし、かつては、その内容を漏らしてしまったために財相や、それ以外の閣僚が辞任したこともある。なお、閣僚は、予算発表当日の午前の閣議で、その内容を細かく知ることとなる。

さて、今回の予算を巡って、連立政権を組む保守党と自民党の対立、さらに保守党の中での対立などがあり、近年になく、「政治的な予算」作成となっている。これは、連立政権の性格を反映してやむをえないことと言えるが、微調整が行き過ぎて、木を見て森を見ずのような状況になっているようだ。財相は戦略家だと言われるが、その名に値するものかどうかは21日に明らかになる。

さて、この予算作成は、英国の政治の政策決定過程の一面を現わす具体的な例だと思われるので、その内容について触れておきたい。主な争点は以下の通り。

保守党

基本的な考え方:減税・企業活力と投資の促進
与えたいイメー: 誰ものことを考えている
所得税:15万ポンド(1950万円)を超える収入にかかる現在の最高税率50%の引き下げ
富裕税:高級住宅税は避けたい
法人税:法人税減税を実施したい

自民党
基本的な考え方:公平重視・富分散
与えたいイメージ: 弱い者の味方
所得税:現在の最高税率を維持し、課税最低限度額を早く引き上げたい
富裕税:高級住宅税の導入
法人税 法人税減税より課税最低限度額引上げ優先

なお、保守党、自民党両党ともに、経済成長を図り、雇用を促進するための政策についてはあまり違いがない。また、政府赤字解消への財政削減を進めることでは合意している。本来は、これらや、医療、教育などの方が重要とは言えるが、ここで問題となっているのは、税とその影響だ。子供手当を40%以上の所得税のかかる給与を得ている人には支給しない方針については、キャメロン首相などから異論があったと言われるが、これは両党間で比較的早く合意しており、財相が微調整を行うことになっている。

所得税に関連した課税最低限度額は、自民党がそのマニフェストで1万ポンド(130万円)までに上げることを約束しており、連立政権合意書でもそれを目指すことを合意している。今年4月からそれを8105ポンド(105万円)まで上げることになっているが、自民党はそれをさらに早めるよう要求している。200万ポンド(2億6千万円)以上の住宅への高級住宅税の導入は、自民党がマニフェストで約束していたが、そのような住宅を持っている人は保守党支持者であることが多いことから保守党内で反対が強く、キャメロン首相が反対したと伝えられる。

これまでところ、保守党と自民党の妥協で、以下のようなことが合意されているようだ。

 課税最低限度額を9千ポンド(117万円)程度まで上げる。
 所得税の最高税率50%を2013年4月から引き下げる。45%?
 高級住宅税は導入しない。
 税逃れ、特に富裕層の税逃れを取り締まる。自分の住む住宅を会社の持ち物として印紙税を免れることやそれ以外の「合法的な節税策」を違法にする、もしくは制限枠を設ける。

所得税の最高税率50%を引き下げることは、所得が実質目減りしている人が多く、給与が凍結されている公務員が多い状況では、そう簡単に実施できることではない。しかし、次の総選挙を2015年に想定していることを考えれば、これは早い目に下げておいた方がよいという政治的な計算が背景にあると思われる。つまり、選挙が近づいてくればくるほど、下げることが難しくなるという判断だ。さらに、直ちに下げるのではなく、ある程度景気が改善してきた頃を見計らってということになる。ただし、これらに自民党が全体として合意しているわけではない。自民党党首のクレッグ副首相らがこの引き下げを容認したが、それを保守党につけ入れられたと見る向きも多い。この予算発表で、保守党がその「嫌な党」イメージを拭い去ることができるか、また、自民党が「弱い者の味方」イメージを回復できるかは見ものだが、いずれも難しいように思える。

2012年3月17日

陰の財相、エド・ボールズの話(Is the Shadow Chancellor Ed Balls a Tough Guy?)

今日のタイムズ紙の付録マガジンの表紙を見た途端、思わず笑ってしまった。ボクの笑いを聞いて2階にいた妻が「いったいどうしたの?」と聞いてきた。そこで、その表紙に載っているエド・ボールズの言葉「過去を振り返って、ゴードン・ブラウンが偉大な首相だったと言う人はいないだろう」を読み上げた。

ボールズは、ブラウン前首相の側近中の側近だった。トニー・ブレア元首相の側近だったジョナサン・パウルやアラスター・キャンベルがブレアの批判につながる言葉を慎重に避けるのに対比してボールズのこの言葉は意外だった。ボールズは、ブラウンが財相当時、よく「副大臣」と呼ばれたほど大きな影響力を発揮した人物だ。英国中央銀行のイングランド銀行が政策金利の決定を含めた金融政策を担当することになったのは、実はボールズの発案と言われる。

もちろんボールズにはこういう言葉を吐く背景がある。ブラウン前首相の政権運営そのものに大きな批判があるのに加え、財政運営のかじ取りを誤ったために国が大きな債務を抱え、現政権がその後始末に四苦八苦するという状況を作り出したと考えられているためだ。毎週水曜日恒例の首相のクエスチョンタイムでは、キャメロン首相や、時に代理として答弁する自民党のクレッグ副首相が、政権に就いて2年近くたった今でも「前労働党政権がこの問題を作り出した」と労働党を攻撃する。労働党は既に、政権政党時代に「誤りがあった」と言っているが、ボールズが、現在の労働党は、ブラウン時代の労働党とは違うということを強調するためには、ブラウンからある程度距離をおかなければならないと感じているのだろう。

ただし、本文を読めばわかるが、ボールズはその言葉を言った後、「しかし、2007年から8年にかけてゴードン[ブラウン]とアリスター[ダーリング蔵相]が示したリーダーシップはものすごく重要だ。それは世界中に知られているが、ここ英国ではそうでもない」と信用危機への世界的取り組みを先導したブラウン前首相の果たした役割を強調している。こういうインタヴューでは、言葉が前後の文脈から離れて取りあげられる可能性が高いのでよほど慎重にならざるをえないと言える。

ボールズには、少し、雑な人物と言う印象があるが、このインタヴューでは、本当のことを言い過ぎているような気がする。結局のところそう悪い人間ではないのだろう。例えば、ブラウンが怒って電話を投げつけたのは本当か?という質問に対して「えーと、そこにいたことはないので、えーと、電話を投げつけた時に」と答えている。つまり、電話を投げつけたのは本当だと言っているのである。その上、「私は、ゴードン・ブラウンに自ら進んで立ち向かい、彼が誤っていると言う人間だ。これは、実際のところ、大変重要な公共サービスだった」と言う。ブラウンは人の言うことをあまり聞かなかったようだ。

マガジンの中の写真では、新調したばかりに見える高級そうなスーツを着ている。ボールズは影の蔵相だが、その下院議員としての年俸は、£65.738(850万円)でそう多いものではない。ブラウンのアドバイザーになるまでは、フィナンシャルタイムズ紙の論説記者を務めていた。なお、ボールズの妻のイヴェット・クーパーも労働党下院議員で、影の内相だ。2人ともオックスフォード大学からケネディー奨学金を受けてハーバード大学で学び、その後エコノミクス担当のジャーナリストになった経歴は似ている。2人は前ブラウン内閣で閣僚となり、初めての夫婦での閣僚就任となった。

ボールズは2010年の党首選挙に立候補して敗れたが、その前に、2人のどちらが党首選に立つかで相談したと言う。現在、賭け屋は、クーパーを現在の労働党党首エド・ミリバンドの後に党首となる筆頭候補と見ている。しかし、ボクは、クーパーは頭が良いかもしれないが、政治的なセンスに欠ける面があると思う。かつて住宅担当相だった時に、HIPSと呼ばれる、売り主が家の情報をまとめて提供する義務を推進したことがあるが、これは完全に失敗に終わったからだ。クーパーよりも一世代ジャンプして、次は現在影のビジネス相のチュカ・ウムンナに移行するのではないかと思っている。

ボールズは「過去100年間にわたって、英国の経済政策担当者が犯してきた政治的に大きな失敗は、自分の言うことを信じて、何とかうまくいくと期待してそれに執着することだ、つまり、それが本当だと言うと、それが本当になると信ずることだ」と言う。なぜ日本が莫大な債務を負うようになったかが説明できるような気がした。

2012年3月7日

ケーブル・ビジネス相の指摘した点:日本も考えるべき(Vince Cable’s Views on Industry Policy)

ビジネス相のヴィンス・ケーブルがキャメロン首相とクレッグ副首相あてに書いた、英国の産業政策に関する手紙がリークされた。ケーブルは、クレッグと同じく自民党から連立政権に入っている下院議員である。ケーブルは、経済学で博士号を持ち、かつては大手石油会社のロイヤル・ダッチ・シェルのチーフエコノミストであった人物である。

この手紙では、政府が銀行の信用危機で救済し、その82%の株式を持つロイヤルバンク・オブ・スコットランドを分割し、産業目的銀行を作るなどの提案が英国では注目されているが、むしろそれよりももっと根本的な、注目すべき指摘が入っていると思われるので、その点だけに触れておきたい。それらは以下の点だ。

 政府は、財政削減に力を入れ過ぎており、将来の方向性への思慮が足りない。
 国の経済成長をどの分野が担っていくか政府は未だに見定めることができずにいる。
 政府は、危機に対応しているだけであり、また、市場がどう反応するか見ているだけで、プロアクティブに対応していない。
 長期的な産業の力を作り出すには、市場の力だけでは不十分だ。

これらの指摘は、英国の問題だけに限らず、日本にも当てはまるように思われる。

2012年3月5日

保守党の次期総選挙戦略(Tory’s Strategy for the Next General Election)

次の総選挙は2015年春の予定だ。現連立政権で成立させた5年定期国会法では、この5年間の期間中に下院選挙が実施される可能性は非常に限られている。

まだ次期総選挙は3年余り先のことだが、保守党は、2010年の総選挙で過半数が獲得できず、自民党との連立政権に踏み切らざるをえなかった経緯があることから、次期総選挙では過半数を獲得しようと準備を進めている。

その戦略の内容が、保守党支持者のウェブサイトConservativeHomeで紹介されたのでここで触れておきたい。
http://conservativehome.blogs.com/majority_conservatism/2012/03/the-conservative-hq-plan-to-win-36-seats-from-labour-and-14-from-the-liberal-democrats.html

最も重要な点の一つは、重点選挙区を2010年総選挙の際の180から100に絞ったことだ。この重点選挙区100の内、50は保守党議席だが次点との差が少ないもので、残る50の内、36は労働党の議席、そして14は、連立政権を組む自民党の議席だ。つまり、既存議席を守り、他の政党から議席を奪うことで、下院の過半数を獲得しようとしている。

この戦略でのターゲット層は、35歳以下の人、独身、平均以上の収入を得ている人、そして黒人やエスニックマイノリティであるが、このウェブサイトの編集長は、それよりもイングランドのアイデンティティの体現、低所得者への減税、光熱費の削減、不平等の緩和、福祉制度の改革、そして地元や労働者階級出身の候補者を立てるなどの方が有効だと指摘している。

なお、保守党は2015年の総選挙に向けて、この4月から80人の新大卒者を選挙運動マネジャーとして雇う予定だ。徹底的な訓練を与えた後、来年早々から重点選挙区などに送り込む予定。インターネット選挙運動の責任者は既にヘッドハントしているという。

2012年3月5日

キャメロン首相のストラテジストの長期休暇(Steve Hilton’s Temporary Retreat)

デービッド・キャメロン首相のストラテジスト、スティーブ・ヒルトンがしばらく首相官邸を去ることとなった。今年夏からカリフォルニアのスタンフォード大学の研究所で客員研究員となり、1年後に英国に帰ってくるという。ヒルトンはストラテジストとしてキャメロンが保守党の党首となる前から戦略をアドバイスしてきており、キャメロンのスペシャルアドバイザーとして官邸に入った人物である。官邸では、それまで構築してきた政策を実施する役割を果たしてきたが、連立政権内の自民党、官僚、EUなどの制約のために思うように進まず、不満が高まっていたといわれる。なお、キャメロン首相のストラテジストには、概して長期並びに全体戦略担当としてヒルトン、それ以外の戦略にはオズボーン財相がいる。オズボーン財相は、その多忙な仕事にもかかわらず一日二回の官邸での戦略会議に参加していると言われる。

ヒルトンは、キャメロンが保守党党首となった後、保守党の「嫌な党」イメージを無くすためにグリーンキャンペーンなどを仕掛け、また、キャメロン首相の中心政策ともいえるビッグソサエティの構想を打ち立てた人物でもある。この構想がうまくいっていないこともヒルトンの動機の一つになっているように思われる

ヒルトンは、オックスフォード大学で学んだ後、キャメロンと同じく保守党本部に入った。そこで保守党の選挙キャンペーンを担当した大手広告宣伝会社に引き抜かれる。そして自分で企業イメージを向上させる会社を設立し、成功したが、その後、キャメロンに依頼されキャメロンの戦略を立て始めた。キャメロンはヒルトンのサービスに当時の自分の給料の2倍以上を支払ったといわれる。ヒルトンの妻は、もともと保守党のマイケル・ハワード党首の政治秘書を務めた人物で、当時からその有能ぶりは有名だったが、現在は、グーグルのコミュニケーション担当の副社長である。ヒルトン夫人は、かつてキャメロン首相の妻サマンサの義父と関係があったことから、サマンサとそう仲が良いわけではないと見られているが、ヒルトンとキャメロン首相との関係の強さはよく知られている。

ヒルトンが首相官邸を離れると聞いた途端、恐らく、アイデアが尽きてきて充電が必要だと判断して一時官邸を離れるのではないかと思った。サンデータイムズ紙は、政府がこれ以上の改革を進める意欲を失ったことが原因というが、これは同じことを違うアングルから見ているように思われる。来年夏にロンドンに帰ってきた時には恐らく次の総選挙の準備にあたるのではないかと思われる。

2012年3月3日

ロンドン市長選の動向(Forthcoming London Mayoral Election)

この5月3日(木曜日)にロンドンの市長選が行われる。このロンドン市長選は、日本で言えば東京都知事選にあたる重要な選挙だ。

この選挙は、保守党のボリス・ジョンソン現市長と労働党のケン・リビングストン前市長の争いである。現在までの世論調査では、二人の差はかなり小さく、接戦となっていると見られている。

二人の間の主な争点は、ロンドンの公共交通の運賃である。ロンドン内では、地下鉄、バス、それに一般の鉄道網は私鉄も含めて基本的にロンドン交通局の統一運賃の下で運営されている。この運賃をジョンソン市長が今年1月に上げたのに対し、リビングストン前市長は、当選すれば運賃を7%カットすると表明した。このため、それまで劣勢と見られていたリビングストンが支持率を上げ、接戦となっている。

ジョンソンは、リビングストンの運賃引き下げは、ロンドン交通局の予算から10億ポンド(1300億円)が失われることを意味し、地下鉄の改善整備ができなくなる、リビングストンは向こう見ずだと非難した。ジョンソン市長の政策には、以下のようなものを含む。

 20万人の仕事をつくる
 首都に300エーカー(120ha)の緑のスペースを復活させる
 街路に2万本の気を植える
 商業の中心街改善のために2億2100万ポンド(290億円)を投資する
 大ロンドン庁分の地方税を引き下げる
 地下鉄の遅れを2015年までに30%減らす

ジョンソン市長には個人的な人気があるが、上記のような政策に有権者がどの程度関心を示すだろうか?

なお、ジョンソンは、保守党支持のテレグラフ紙のジャーナリストを務めた後、人気のある保守党寄りの人気雑誌スペクテイターの編集長を務めた。そして保守党の下院議員としてよく知られていた人物で、キャメロン首相の後の保守党党首の最有力候補である。

一方、リビングストンは、ブレア政権で新たに設置した大ロンドン庁(Greater London Authority)で初代市長を2000年から2008年まで務め、ロンドンの混雑税やオイスターカードと呼ばれる自動運賃支払いシステムを導入した。かつては、サッチャーが廃止する前の大ロンドン議会(Greater London Council)の多数派だった労働党のリーダーとして市長のような立場にあった。その後、労働党の下院議員となった。

2012年2月18日

政党の政策作りのメカニズム(How political parties make their policies)

英国の政党はどのように政策を作っているのだろうか?ここでは、主要三政党の政策形成過程を見る。

いずれの政党も政策形成過程はよく似ている。党中央の政策フォーラムのような組織が中心となるが、なるべく多くの人に参画させ、意見を集約するとともに、参加意識を向上させることを狙いとしている。党組織からの政策へ影響が比較的大きい自民党でも、政策形成にはかなり慎重に対処しており、党のリーダーシップが目配りできる仕組みを作っている。実際には、総選挙の際のマニフェストには、リーダーシップの判断が大きく影響する。つまり、マニフェストは、総選挙時の政治判断で決まるといえる。

保守党

保守党政策フォーラムという全国組織を設けている。保守党地方支部ごとにその支部があり、それをまとめる広域地域ごとの責任者がいる。全国組織の座長は、内閣府で政策担当相を務めるオリバー・レトウィン。レトウィンは、保守党の野党時代に影の財相をはじめ、影の内閣の重職を務めた人物である。2010年総選挙のマニフェスト作成の責任者だった。

主な政策課題は以下の通り。
• ensuring higher employment rates;
• achieving a more regionally-balanced economy;
• delivering more affordable housing;
• raising productivity;
• reducing the exposure of the banking sector;
• eroding income inequality and child poverty;
• improving child wellbeing;
• improving the life chances of looked-after children;
• ensuring elderly care is well funded;
• protecting natural capital; and
• reducing the scale of central bureaucracy
参照:http://www.conservativepolicyforum.com/what-cpf


労働党

全国政策フォーラム(NPF)が中心となる。このメンバーは、中央執行委員会(NEC)33人全員を含めて194人。この委員会の上部機関として、党首が委員長を務める合同政策委員会があり、また下部機関として6つの政策委員会がある。NPFが、最高議決機関である党大会に政策を提出。党大会ではそれ以外の課題も議論される。

労働党には「政権へのパートナーシップ(PiP)」という、労働党のすべての関係者、党員、選挙区支部、労働組合、社会主義関係団体、議員などを含めて政策を討議するシステムがある。上記で述べた政策委員会が政策案を出し、PiPで検討し、そのフィードバックが繰り返されるという形のサイクルがある。。その結果がNPFに上がることになる。

党大会で合意された政策は、総選挙の際のマニフェストの基本となる。2010年の総選挙では、現党首のエド・ミリバンドがマニフェストをまとめた。

6つの政策委員会の課題は以下の通りである。

Britain in the World
Crime, Justice, Citizenship and Equalities
Education and Skills
Health
Prosperity and Work
Sustainable Communities

参照:http://www.labour.org.uk/policy_making


自民党

連合政策委員会(Federal Policy Committee)が中心となる。このメンバーは、党大会で2年ごとに選出され、この委員会が党大会で議論する土台となる案を作成する。また、この委員会が、国会議員団と協力して既に合意された政策を基にマニフェストを作る責任もある。なお、自民党党首のニック・クレッグはこの委員会のメンバーで、この委員会の座長は、クレッグ党首の側近のノーマン・ラム下院議員である。

自民党では党大会が最も重要な機関で、年二回、春と秋にある党大会で、地方支部から選ばれた代表者たちが英国全体に及ぶ政策を決める。地方支部やそれより広範囲の人の集まりで、政策を議論し、その代表者が党大会で政策決議や政策案を議論し、それらに投票する。

なお、イングランド、スコットランド、ウェールズでは、それぞれの地域に関わる政策を決める。

参照:http://www.libdems.org.uk/how_we_make_policy.aspx


2012年2月15日

英国の格付の政治(Politics on the UK’s Credit Rating)

格付け会社の一つムーディーズが、国の格付の最高水準であるAaaの英国のアウトルック(見通し)をネガティブ(弱含み)としたことから、マスコミが大きく取り上げ、財務相と影の財務相の政治的な論争が始まった。

格付とは、国がその債務を履行できなくなる可能性の評価である。ここでのネガティブ(弱含み)とは、今後12か月から18か月の間に現在のAaaの格付けを失う可能性が3分の1あるということである。

問題は、オズボーン財相はこれまで政府の行っている財政緊縮策は、このAaaの格付を維持することがその主な目的だと主張してきたことだ。この格付を維持することは、英国への投資を促し、政府の借金の利子を低く保つことができるからである。英国は、欧州で最も大きな債務を持つ国の一つである。

オズボーン財相は、財政緊縮以外に英国の取るべき道はないと主張しているのに対し、労働党のボールズ影の財相は、緊縮策は自滅的な道で、経済成長こそが政府債務を減らす唯一の方法だと言う。つまり、需要を増やし、雇用を維持する経済成長を促すために借金をすべきだと言うのである。オズボーン財相の当初の計画では、2015年までに財政を均衡させる予定であったが、失業増加と経済の停滞のために、既に2017年までに先延ばししている。この最大の原因は、英国の最大の市場である、ユーロ圏の問題だ。これは、ユーロ圏外の英国の経済、そして政治に大きな影響を与えている。

ムーディーズは、英国が財政緊縮策を緩めることには警告を発している。そのため、所得課税最低限を、連立政権の合意文書に含めた、年に1万ポンド(120万円)まで上げることは、かなり先のことになりそうだ。課税最低限は現在の7475ポンド(90万円)から8105ポンド(97万円)に4月から上がることが既に決まっている。保守党と連立政権を構成する自民党は、目標は1万ポンドにとどまらず、1万2千ポンドまで引き上げるべきだと主張している。

2012年2月14日

「政治主導」とは何か?(What is the politicians’ initiative in Japan?)

「いったい政治主導とは何ですか?」という質問を受けることがある。日本でよく言われる「政治主導」は、多くの誤解を招いているようだ。中には、政治主導とは、より多くの政治家を省庁のトップに入れることだと考えている人がいたようだし、民主党政権の「事業仕分け」が政治主導の一つの形であり、また、その産物だと考えている人もいるようだ。一方、政治主導とは官僚主導の対極と考え、省益優先の官僚から、政策決定や予算作成の力を奪うことだと考えている人もいるようである。「政治主導」の理解は、全体の利益を考えた政治的な判断を重視する方向性では一致している点が多いものの、政治主導とは何か、という問いへの本質的な答えとなってはいないようだ。

結論から言うと、「より多くの政治家を省庁のトップに入れること」は政治主導ではない。日本で行った「事業仕分け」は政治主導とは言えない。官僚から政策決定権や予算作成の力を奪うことが政治主導の目的ではない。政治主導とは、基本的に、その業務を任された政治家が政策を決定し、その責任で実施し、その結果の責任を取るという体制である。政治家の数の問題ではない。「事業仕分け」のように、その仕事を直接任されていない人が意見を言い、言いっぱなしで、責任は他にあるというものではない。官僚に一定の範囲で裁量権を認め、実施させながらも、最終的にその責任は自分が負うという体制である。

英国の政治家の仕事ぶりを見ていると、日本の行き方とは相当異なるように思われる。2010年の総選挙後成立した保守党と自民党の連立政権では、巨額に上る政府債務に取組み、サッチャー保守党政権を上回る厳しい財政緊縮策を取ってきた。首相と財務相が打ち出したのは、基本的に4年間で25%の財政カットだ。財政カットの内容を決めるのは各省庁を司る政治家=大臣である。大臣が基本的な枠組みを官僚と決めた後、官僚が具体策を練り、それを大臣と相談した後、大臣の責任で財務相に提出する。もちろん財務相の下で働く財務省の官僚がそれぞれの省庁の官僚と連絡を取り合うが、それぞれの省庁の大臣が最終的な決定をする。そして提出した計画に問題や疑問などがあれば、財務相をはじめとするトップの大臣たちで構成するパネル、スターチェンバーと呼ばれるが、そこに所轄の大臣が呼ばれ、審問を受ける。それでもなおかつ意見がまとまらない時の最終的な決定権限者として首相が位置付けられる。実際には、このスターチェンバーにまで行かねばならなかった例はなかったと言われるが、この政策決定の過程は、内部での作業であり、財務相がその結果をまとめて公表した。

ここでは、トップ政治家が基本的な方向性、つまり財政削減の枠を決め、それを各所轄大臣が、自分のリーダーシップで、具体的な政策、削減策としていった。日本でも同じようなことができるだろうか?

若者の失業対策 (The UK way of dealing with Youth unemployment)

16歳から24歳のニートが116万人となったと昨年11月に発表された。ニートとは、英国では学校にも行っていない、仕事もしていない、トレーニングも受けていない人のことを言う。これは、この年代層の5人に1人にあたる。たいへんな数だ。

日本では、新卒を好む傾向があるが、英国では、即戦力を求めて経験者を好む傾向がある。このために、学校を出たばかりの若者が職にありつけない事態が生じている。

これを放置しておけば将来に禍根を残すと、政府は対策を取ることにした。これは、ユース・コントラクトという制度で、若者に仕事に就くきっかけを与えようとするものであり、この4月に始まる。今後3年間に1200億円を投入し、41万人の働く場を作り出そうとしている。

この制度では、基本的に、企業がこれらの若者に機会を与えれば、政府から一定の助成金が支給される。この中で中心となるのは、18歳から24歳の若者を6か月間雇用すれば一人当たり27万円の助成金がでるもので、3年間で16万人の働く場をつくるのが目的だ。

これ以外に、週16から29時間のパートタイムの仕事に14万円の助成金が出るもの、見習い者として雇用する者には18万円の助成金がでるもの、さらに25万人に8週間までの職場でのトレーニングを与えようとするものなどがある。特に貧困など難しい家庭出身のニートは、ニートであることが継続化しやすい傾向にあることから、16歳と17歳の若者を対象にして2万5千人の働く場所作りに60億円を使う予定だ。

ただし、今回の制度で、どの程度効果が上がるかははっきりしていない。助成金の額が企業の関心を呼ぶほどのものかどうか疑問だという声もある。

このような制度は、かつてサッチャー保守党政権時代の1983年にも実施されたことがあり、また、前ブラウン労働党政権でも2009年に似たような制度が導入された。

1983年のユース・トレーニング・スキームでは、1983年価格で今回の制度と同等の10億ポンドを費やして実施したが、その評価は以下を参照のこと。今回の制度は、このスキームで問題となったことに対応している。
http://www.princeton.edu/~ota/disk1/1995/9559/9559.PDF

また、BBCの関連のウェブサイトは以下を参照。
http://www.bbc.co.uk/news/uk-politics-17010683?utm_source=twitterfeed&utm_medium=twitter
http://www.bbc.co.uk/news/uk-15896650

2012年2月6日

波紋を呼ぶ主任視学官の新方針(New Chief Inspector of School’s determination)

今年1月、主任視学官に就任したマイケル・ウィルショーは、校長として、貧困、ギャング、麻薬など多くの問題のある困難な地区にある学校を「奇跡的に」立て直し、高い業績を上げる学校に変えた人物だ。ガブ教育相が口説き落とし、教育水準局のトップである主任視学官となった。この人物がいかに教育の水準を上げるかについてサンデータイムズ紙にこう語っている。

まず、教育水準を上げるには、以下が必要だと言う。

 強力なリーダーシップ
 学校スタッフの行動業績管理のレベルが高いこと

つまり、校長が優れたリーダーシップを発揮し、無能な教員や惰性で教えている教員を無くし、子供たちの行動を改善しなければならないと言うのだ。その上、もし、子供の家庭環境が良くなければ、親を責めるのではなく、学校がその代わりを務めねばならないと言う。

この新主任視学官の言動は、既に、英国の教育界に大きな波紋を引き起こしている。環境の恵まれた地区の学校には、さらに高い成績を上げるよう要求し、環境に恵まれない地区の学校では、その環境を言い訳にせず、主導的に学校内の環境を整備し、教育水準を上げよというのだ。教師が安穏とした環境におれる時代は終わった。


英国の所得税(British Income Tax)

英国の所得税は、年齢による要素もあり、また、10万ポンドを超えると計算が異なるなど、かなり複雑だ。しかし、一般的な被雇用者の所得税の概略は以下の通り(2011年度)。

7475ポンド(90万円)無税
7475ポンドを超えて3万5千ポンド(420万円)まで20%。
3万5千ポンドを超えて15万ポンド(1800万円)まで40%。
15万ポンドを超えると50%。

2012年2月1日

ロンドン市長の効果の乏しい「選挙公約」(London Mayor’s not so effective promises)

今年5月にあるロンドン市長選(日本の東京都知事選にあたる)に立候補する現職のボリス・ジョンソン(保守党)が、大ロンドン市の地方税(交通、消防、警察、オリンピックなどに使われる)を来年度1%削減すると発表した。昨年12月には凍結と発言していたが方針を転換したのである。

これは、市長選の対抗馬である、前市長のケン・リビングストン(労働党)がロンドンの交通運賃を7%値下げすると公約し、世論調査の支持率でそれまで優位に立っていたジョンソンがリビングストンに逆転されたことがきっかけだ。

ジョンソンはリビングストンがその2期8年間の市長在任中にこの大ロンドン市の地方税を153%アップしたと攻撃している。しかし、ジョンソンの公約の1%減税の効果は、一般家庭で年400円と少額であるのに対し、交通運賃の7%下げは、リビングストンの計算では4年間で1万2千円と、かなりの差がある。

それでも保守党のキャメロン首相の次の党首候補の最右翼であるジョンソンが有利だと見る人が多いが、選挙の公約は、有権者に本当にアピールできるものでなければならないといえる。

2012年1月30日

バイリンガル小学校(Bilingual Primary Schools)

ロンドンのワンスワース区には英語とフランス語のバイリンガルで教える公立の小学校がある。ウィックス小学校とホサム小学校。さらに2013年秋からもう一つの小学校がバイリンガルで教え始める。いずれも小学校1年からスタート。バイリンガルで教えることで、教育レベルを維持することと子供たちに外国語を学ぶ機会を与えることを目的としている。

これらの学校のウェブサイトは以下の通り
http://www.wix.wandsworth.sch.uk/e/E_intro.asp

http://webfronter.com/wandsworth/hotham/menu/mnu1.shtml#m-menu1_History_

http://wandsworth.schooljotter.com/shaftesbury/Bilingual+Sch

選挙で選ぶ警察コミッショナーの導入(The New Police and Crime Commissioners)

英国政府は、イングランドとウェールズのそれぞれの警察管区に新たに選挙で選ばれた警察・犯罪コミッショナー(Police and Crime Commissioner)を設ける。これは、もともと2010年の総選挙で保守党のマニフェストに含まれていた公約だが、それが自由民主党との連立合意で確認されていた。それが昨年法制化されたものである。

ロンドンでは、2012年5月に市長選があり、市長となった者が警察・犯罪コミッショナーとなるが、それ以外のイングランドとウェールズの41の警察管区では、2012年11月15日に、それぞれの管区の選挙で選ばれる。

なおロンドンでは、ロンドン警視庁の警視総監がコミッショナーと呼ばれるが、これとロンドン市長の就く警察・犯罪コミッショナーとは異なる。それ以外の警察管区では、トップの警察官はChief Constable警察管区本部長と呼ばれる。警視総監と警察管区本部長は、警察実務の責任者で、警察・犯罪コミッショナーは、活動目的を設定し、監視し、監査する役割を果たす。

警察・犯罪コミッショナーの主な仕事は以下の通りである。
• 犯罪を少なくする。管区内で効果的、効率的な警察サービスを提供する。
• 一般の人の意見を汲んで、警察の優先目標を決める。
• 予算を決める。税を課することもでき、管区内並びに全国的な優先項目がきちんと予算の裏付けがあるよう確保する。
• 管区警察の実績に関して警察本部長の責任を問う。
• 管区内のコミュニティーのニーズにできるだけ効果的に応え、代表する選挙民の生活にじかにはっきりとした違いを出す。

注:
保守党マニフェスト p57
http://media.conservatives.s3.amazonaws.com/manifesto/cpmanifesto2010_lowres.pdf
連立合意書 p13
http://www.direct.gov.uk/prod_consum_dg/groups/dg_digitalassets/@dg/@en/documents/digitalasset/dg_187876.pdf#search='Coalition government agreement'
法律
Police Reform and Social Responsibility Act 2011
http://www.legislation.gov.uk/ukpga/2011/13/contents/enacted/data.htm


財政カットに苦しむ英国の地方自治体(Local governments, suffering from budget cuts)

英国政府の緊縮財政で、地方自治体が苦しんでいる。その状況はこれまで断片的にマスコミが報道してきたが、あるチャリティ財団がまとまった報告書を出した。
(http://www.jrf.org.uk/sites/files/jrf/communities-recession-services-full.pdf)

この報告書によると、2015年までの4年間で政府からの財政支出は実質ベースで40%減るが、このような大きな削減では、効率改善策だけでは到底対応できない。その削減の影響の大きさは地方自治体によりかなり異なる。裕福な地域の自治体への影響は比較的軽いが、貧困地域の自治体が特に大きな影響を受けている。社会的な弱者はそれ以外の人と比べて、公共サービスにより依存していることが事態をさらに悪化させている。

参考:http://www.bbc.co.uk/news/uk-16744676

2012年1月29日

「対立」を作り出す政治(Politics which create divisions)

私の英国政治勉強会で、かつての小泉首相や現在の橋下大阪市長の対決する姿勢、もしくはディヴィジョン(対立)を意識的に作り出す言動は、国民の関心を高め、人気を博したのではないかとの見方があった。確かに、この面があることは事実だ。ただし、政治家として成功するには優れた政治的なセンスが必要である。

つまり、これには条件がある。まず、国民や少なくとも選挙民によく知られているということだ。共感を集約できる存在である必要がある。それができる政治的なセンスが必要だ。さらに2人とも極めてハイリスクなストラテジーを取ってきた。小泉元首相の場合、まず、自民党の党首選で勝ち目がないと思われたにもかかわらず、出馬した。しかも郵政選挙はギャンブルだった(私はこの郵政解散を聞いた途端に、小泉首相の勝ちだと思ったが)。橋下市長は、「橋下」対「反橋下」の構図を作り、多くのマスメディアも敵にしてきた。英国の政治家ならまず取らない方法だ。いずれもハイリスクの方法を取りながら、勝ち残ってきた。要は、これができる、もしくはできるかもしれないと判断する政治的なセンスと、ここまでする勇気の問題だ。

英国では、政策のディヴィジョンを作り出すことは、政治手法の一つで、日常的に行われている。ただし、劇的で効果的なディヴィジョンを作り出すことは容易ではない。一般には、ディヴィジョンのためのディヴィジョンづくりに終始することになる。無理に違いを浮き彫りにしようとしたり、世論調査などを見て、多くの人が支持する方についたりする。つまり、自分たちの訴えることを信じていなくても、もしくは自分たちの議論に問題があるとわかっていてもそうする傾向がある。英国政治の残念な点だ。


英国の教育:ルールに従わせることの大切さ(Rules are Important in Education)

1月27日の田原総一郎さんの「朝まで生テレビ!」で、香山リカ氏と橋下徹大阪市長の間で次のようなやり取りがあったという。

「もし先生たちがみなさん起立して大きな声で歌うようになったらね、本当に犯罪率が下がるんでしょうか。そこの因果関係は、どうやってエビデンスを証明するんでしょうか」。橋下氏の回答は、ルールを守ることを徹底させるという方針だ。香山氏は、それは効果がないと海外でも証明されていると述べた。
(http://www.tanteifile.com/watch/2012/01/28_01/index.html)

香山氏の、ルールを守ることを徹底することは「効果がないと海外でも証明されている」という発言には異議がある。英国でこの1月から教育水準局Ofstedのトップである主任視学官となった人物は、ルールを守る、規律を守ることで、奇跡的に学校を立て直した人物だ(参照:英国では左と見られ、教師に最も読まれている新聞ガーディアン
http://www.guardian.co.uk/education/2011/oct/14/michael-wilshaw-new-ofsted-chief)
私は、実際この学校を訪れ、この人の話を直接聞いたことがある。「ルールを守る」ことはこの学校の教育の柱である。

一方、英国ではリベラルで知られる自由民主党の地方議員が前政権を担当した労働党の施政の問題は「権威への敬意の喪失」だと指摘(サンデータイムズ紙2012年1月8日、News Review p3)したが、同感だと思った。この下で育てられた若者が犯罪を重ねているとも指摘している。これは決して権威に服従せよということではない。労働党政権があまりにも個人の権利を尊重し、その結果、学校や社会の中の「秩序」が失われてしまったことを指している。

教育の場ではルールを守り、秩序を守ることは重要だと思う。ただし、日本では、「ルール」が形骸化し、独り歩きし、それが目的になってしまう傾向があることにはくれぐれも注意しなければならないだろう。「ルール」はあくまでも児童生徒を育む一つの手段に過ぎないからだ。

2012年1月24日

政治家の容貌の効果(Appearance: Important for Politicians?)

政治家の容貌は大切だろうか?有権者は政治家の容貌を見て誰に投票するのか決めるのだろうか?そこまで絶対的に言えないとしても、多くの人は、政治家の容貌は重要だと言うだろう。実際これは、心理学の研究でも認められている(例えば、Political Psychology, April 2011; Physical Attractiveness and Candidate Evaluation: A Model of Correction by William Hart, Victor C. Ottati, Nathaniel D. Krumdick や、European Journal of Political Research, January 2008; The frog pond beauty contest: Physical attractiveness and electoral success of the constituency candidates at the North Rhine-Westphalia state election of 2005, by ULRICH ROSAR)また、ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン教授も最初の印象は極めて大切だと言う。

1月16日のサンデータイムズ紙の世論調査の中で、労働党党首のエド・ミリバンドは首相になるには醜くすぎると思うか?という質問を行った。結果は?10%の人がそう思うと答えた。かなり少ない。しかし、この世論調査を見るまでミリバンドが醜いかどうかなど考えてみたこともなかった私が、今やミリバンドが醜いかどうか考えることとなった。

この質問に対しては、そのような質問はするべきではない、とかなり批判的な意見がある。一方、これまでなされた研究を考えると、そういう質問は妥当だという見解もある。例えば、タイムズ紙のDaniel FinkelsteinやUK polling reportのAnthony Wellsだ。後者は、その世論調査を実施した世論調査会社に勤めているが、次のような研究を指摘している。
(http://www.mit.edu/~glenz/looking_the_part.pdf)

しかし、この研究やPolitical Psychologyの論文では、政治のエキスパートはより客観的に政治家を見ることができるが、そうでない人は、容貌により大きく影響される傾向があると指摘している。だからこそ、例え、世論調査に応じた人の数は1800人足らずで、また、それを見出しに取りあげたインターネット版の記事や、見出しには出ていないその新聞記事に関心を示すような人が多くないとしても、これらの人々の心にそのような印象を残す質問は、もし新聞が「公器」と自覚するなら避けるべきだと思われる。

2012年1月13日

政府の無駄を削減する方法?(How to reduce the government waste?)

政府に無駄が多い。国家公務員が無能だ。こういう話はいつも出てくる。特に今に限ったことではない。日本でも、消費税上げの議論の中で、税を上げる前に、政府の無駄をなくせ、という議論がある。英国では、国の大幅な財政カットで国民がその痛みを次第に感じ始めている。そのような時は、特に政府の無駄の話は目を引く。しかし、どうすれば政府の無駄がなくせるのだろうか?

タイムズ紙が、会計検査院と下院の公会計委員会の報告書を調べ、2009年からこれまでに318億ポンド(4兆円)の無駄があり、この額は政府が向こう4年間で削減する予定額の3分の1以上にあたると報告した。

タイムズ紙の記事には若干の誇張がある。例えば、民間資金を公的事業に導入するPFIで契約が政府側に不利だとしてその想定無駄額を「少なくとも」と言って含めたり、財政カットで中止になったり、変更になったプロジェクトなどでの「無駄」も含んでいる。しかし、この記事で強調されているのは、国家公務員にはビジネス感覚が乏しい、民間企業との交渉の経験が乏しく、民間側に出し抜かれているという点だ。これらは、これまでも言われ続けてきたことで、会計検査院や下院公会計委員会委員長の言葉を借りなくてもよいほどだ。

特にタイムズ紙も触れているように、プロジェクトが十分に検討されずにスタートし、その遅延のために、費用が大きく増加している例が多い。一方、現連立政権の社会保障システム改革の中核となる、既存の税控除や手当を統合するユニバーサル・クレジットのためのITシステムが、2013年の開始予定に間に合わないかもしれないとも言われている。前政権からの持ち越しのプロジェクトも現政権のプロジェクトも同じような問題を抱えているようだ。

タイムズ紙の官庁担当部長(ホワイトホール・エディター)は、ビジネス感覚の欠如を補うために民間の力の導入、とどのつまりはコンサルタントを雇うことに触れているが、政府の財政カットで、さらなる10万人の人員削減が予想されている中、これは高すぎる選択肢だという。ただし、それではどうすればよいかの答えの提案がない。

それでは国家公務員にビジネス感覚を身につけるトレーニングを与えてはどうかという見方もあろう。実は英国政府の中には、こういうトレーニングは、調達、リーダーシップ、プロジェクトマネジメントをはじめ数多く用意されている。問題は、このようなトレーニングにどの程度の価値があり、役立つのかということである。

リーダーシップ講座に出た人が、その後、急に、それまで見られなかったようなリーダーシップを発揮できるだろうか?お仕着せのトレーニングを受けた人が突然、ビジネス感覚を身につけるということも考えにくい。武道の例で言うと、講座に出た結果、技術のある程度の概要はわかるかもしれないが、実際にそれを使いこなすには、何度も実際にやってみて、徐々にそれを身に着けるというプロセスが必要だ。しかも状況は常に同じとは限らず、実際には応用能力がはるかに大切になる。つまり、トレーニングを受けてもそれが必ずしも即効があるとはいえない。しかも、武道の場合のように、茶帯と黒帯、さらに初段と3段、5段では、その技に格段の差がある。ビジネス感覚にも経験豊富なベテランと初心者ではかなり大きな幅があるだろう。

問題の根底は、まずは、政府の中の人材登用、人材発掘能力にあるように思われる。私の見るところ、英国の50万人の国家公務員の中で、民間で働いたことのある人もかなりおり、ビジネス感覚を持った人もかなりいると思われる。しかし、そういう人たちが必ずしもそれらの能力を生かせるポジションに就いておらず、しかもその潜在能力を発現させるための有効なガイダンスを受ける仕組みができていないようだ。

また、国家公務員の担当部署での在職期間がかなり短く、次々に人が変わり、責任の所在が不明になりやすい。しかも、公会計委員会などでの国家公務員へのヒアリングには、現職が出るというルールがあり、前任者に直接問いただすことができない。つまり、大きな無駄が発生してもその原因の究明、担当者の責任を問いただすことが極めて難しくなっている。実際、責任者が、自分のプロジェクトがうまくいかなくなると、他の仕事に応募して移り、その責任追及を回避する例もあるようだ。

これと関連したことに政府のコンサルタント雇用がある。コンサルタントの能力が国家公務員より必ずしも優れているとはいえないようだ。時には、国家公務員の中に能力のある人がいるのに、コンサルタントに依存する傾向もあるようだ。コンサルタントは通常、発注者の考えに反することはせず、一見すぐれた計画書、報告書を作成し、優れたプレゼンテーションをする。そのため、政府の担当者はそういうコンサルタントに頼る傾向がある。

特に13年間の労働党政権の中で、本当の能力をきちんと図ることなしに人材登用が繰り返され、また、コンサルタントの使用が蔓延し、それらの結果、能力の乏しい人たちがトップレベルや、中堅マネジャーの地位に押し上げられ、行政そのものの力が弱くなっているように思われる。当たり前のことだが、政府の無駄を減らすためには、まず、能力のある人をトップとし、体制を立て直す必要があると思われる。しかし、英国でよくある過ちは、制度を作ればそれで問題が解決すると考えがちなことだ。それは、なさねばならないことの一部でしかない。本当の課題は、行政の中のダイナミズムを大きく変えねばならないことだと思う。それぞれの国家公務員の持ち場の責任感を高め、信賞必罰をはっきりとさせ、納税者のお金を預かっており、公共のために働くという高い使命感など全体的な価値観が変わらなければ、政府の効率は上昇しない。これらを妨げている大きな要素に政治家がある。しかし、政治家が具体的にはっきりとした目標を掲げ、積極的にリードすることから始めなければならない課題だと思う。

2011年1月8日

行政の大改革案(Forthcoming Civil Service’s ‘Radical Reform’)

キャメロン政権が‘行政の大改革’を検討していると1月8日のサンデータイムズ紙が報じた。サンデータイムズはこれまでにもキャメロン首相のステラレジスト、スティーブ・ヒルトンが行政の対応の遅さにいらだっており、ヒルトンと行政トップとの関係がうまくいっていないと報じたことがある。しかし、今や、内閣書記官(Cabinet Secretary)に、首相官邸付の事務次官だったジェレミー・ヘイウッドが就任し、ヒルトンとヘイウッドが中心になって改革を推進しているようだ。ただし、改革案を出すのとそれを実施することは大きく異なる。その実施には、強力なリーダーシップと非常に大きなエネルギーが組織的に必要だ。それを進めて行ける人材がいるかどうかも課題となろう。

さて、現在の行政のシステムは、1970年代からあまり変わっていないといわれるが、今回の計画では、根本的な問題が検討されるという。それは、以下の2点だ。

1. 行政がどのような役割を果たすか?
2. 政府がどのようなサービスを提供するか?

この2点は、決して新しい課題ではない。かなり前から議論されてきたが、未だにはっきりした方向性が出せているとは言えない。今回の見直しの大きなきっかけは、すでに発表されている財政削減案が本当に達成できるかどうか心配され始めていることにあるようだ。例えば、各省庁には財政削減案があるが、人員削減について具体的な削減目標を持っているのは財務省以外にないという。財務省は、今後4年間で人員を4分の1削減する予定だ。人員削減については、全省庁で、2010年秋からの1年間で10.9%減ったと言われるが、これでは必要な削減目標に到達できない恐れがあるという。

つまり、現在各省庁で行われている無駄の削減や小さな削減策などでは不十分であり、根本的な見直しが必要だと判断したようだ。また、これには行政がどのようなサービスを提供するかも含めて検討されており、政権の進めている、雇用促進や学校経営などの分野の外部委託のシステムを大幅に導入することも視野に入れている。

このような行政改革案に新内閣書記官ヘイウッドがどのような役割を果たすかは見ものだ。12月末に退職した前内閣書記官は、退職前、兼務していた行政職のトップである行政庁長官(Head of Home Civil Service)の役割を内閣書記官の役割から分離した。これまで内閣書記官と言うと、同時に行政職のトップも意味したが、この1月から事務次官会議などの議長や、行政職全体をまとめる役割は、新行政庁長官が務め、内閣書記官の職務ではない。そのため、ヘイウッドは、この行政の大改革の計画に取組みやすいと言える。

しかしながら、大改革の計画を出すのと、それを推し進めるのとはかなり異なる。一般に、これまで政府は改革や大きな機構改革にお金をつぎ込むことで目的を達成しようとしてきた。外部からコンサルタントを雇い、計画を出させ、実施まで手伝わせ、さらに新しい仕事のための人を雇い入れ、既存の体制をあまりいじらない形で進めてきた。このため、各省庁のトップや中堅マネジャーに、血のにじみ出るような改革をリードできる人が少ない。キャメロン政権が2010年に発足して、大幅な財政削減を打ち出し、これまで各省庁はできるだけの無駄削減を行ってきた。しかし、これからが正念場である。どのような‘行政大改革案’が出てこようとも、その実施はかなりの修羅場となるように思われる。

2012年1月5日

サッカーの人種問題(Racial Issues in Football and Beyond)

サッカーのリバプールFCのフォワード、スワレスが、マンチェスター・ユナイテッドのディフェンダー、エブラに対して、試合中に人種差別発言をした問題で、FA(イングランドサッカー協会)は、スワレスに8試合出場停止、しかも4万ポンド(500万円)の罰金を科した。

この件で、リバプールFCは、スアレスは無実だと主張しながらも処分を受け入れることとした。

人種問題は、サッカーの世界でも大きな問題で、欧州でもイタリアや東欧諸国でよく見られる。

スワレスは、エブラに対して使ったとされる「二グロ」という言葉には、母国のウルグアイでは何も人種差別的な意味はないと言い張った。しかし、ここはイングランドであり、また、サッカーの試合中に敵方の選手になぜそういう言葉を使わなければならなかったのだろうか。なぜ、一方のチームの選手が他方の選手の皮膚の色を云々する必要があるのか、ということである。

サッカーの試合中の人種差別発言では、最近もイングランドのキャプテンのチェルシーのジョン・テリーの問題がある。テリーの場合、この発言を警察が取り上げ、テリーは、2月に裁判所に出廷することになっている。テリーは人種差別的な言葉を使ったことは認めているが、それは、相手方の選手が言ったことを繰り返しただけだ、と主張している。

テリーがその言葉を使ったことは、試合のテレビ画像で明らかであるが、その言葉を使う直前の画像が、他の選手の頭でさえぎられており、「俺が***と言ったって?」の「俺が…言ったって?」の部分が確認できないままであった。しかし、最近、新しいテレビ画像を警察が入手したと報道されている。もしテリーが人種差別発言をしたということが確認されれば、裁判がどうなるかは別にして、最低限スワレスの受けた罰を受けることになる。その上、イングランドのキャプテンの地位を失うのは間違いなく、しかもイングランドの選手としてプレーすることが妥当かどうかの問題となる。

人種差別の問題は、サッカーの場だけではなく、英国のあらゆる場で見られる問題だ。スティーブン・ローレンス問題は象徴的な問題である。1993年に黒人の少年が、白人の若者のグループに無差別の人種攻撃で殺害された問題であるが、少年の両親らの長い苦しい奮闘の末、数日前に犯人が有罪となった。この過程で、事件を捜査した警察にも人種偏見が深く根付いていることが白日の下にさらされた。

英国の行政や企業の中でも人種問題は、はれ物を扱う状態になっている。マイノリティの昇進を促進し、差別を防ぐために様々なルールを設けているが、その一方では、人種差別で不利な扱いを受けたと主張されることを恐れ、過分に慎重に対処する傾向があるということだ。本来は、皮膚の色に関わらず、すべての人を同じに扱うことが基本であるが。

2012年1月3日

困難な時にこそ政治家は夢を語れ(Politician’s messages in times of trouble)

年末年始の新聞報道で、特に印象に残ったのは、12月30日のタイムズ紙の社説である。この社説では、野党第一党、労働党の党首、エド・ミリバンドの新年のメッセージが取りあげられ、困難な時に政治家がどういうメッセージを出すべきかに触れている。ミリバンドは、困難な時には、我々の目標を下げるのではなく、逆に上げるべきだと言ったのである。タイムズ紙は、苦しい時に、国民に我慢、耐え忍ぶことを求めるだけでは十分ではない、国民に、国が復興する、そして将来への明るい見通しが感じられるようなビジョンを提供しなければならないと言うのだ。ところが、現在の保守党・自民党の連立政権は、そのようなものを提供していないと指摘する。通常、タイムズ紙は、あまりミリバンドを評価していないが、この点では、私も同感だ。英国、日本に限らず、苦境に立っている時こそ、政治家は将来の夢を大いに語る必要がある。

2011年12月12日

英国自民党の連立政権からの離脱(Lib Dem’s Only Choice)

キャメロン首相が、EUサミットで、ユーロ危機打開の新条約の提案に拒否権を行使したことを受け、連立政権を構成する自民党が、今後のための新しい戦略を練っているように見える。それは端的に言って、適当な時期を見て、連立政権を離れるということだ。これはすぐに起きるというわけではなく、ここ1年から2年の間ということになろう。自民党の大きな戦略転換と言える。

この戦略転換の背後にいるのは、元自民党党首で、上院議員のパディ・アッシュダウンだと思われる。アッシュダウンはニック・クレッグ党首・副首相の後見人的な役割を果たしてきた。保守党のレオン・ブリタンがEU委員だった時、自分の下で働いていたクレッグに保守党の下院議員になるように勧めたがそれをクレッグが断ったために、アッシュダウンに紹介した。それ以降、アッシュダウンがクレッグの面倒を陰ひなたに見てきた。2010年5月の連立政権が非常にスムーズに成立したのは、私の見るところ、アッシュダウン抜きでは不可能だったと思われる。特に、アッシュダウンの後に党首となったチャールズ・ケネディ、それにその後のメンジー・キャンベルに多くを言わせずにことを進めたのは、自民党に大きな影響力を持つアッシュダウンの仕業と言える。ケネディは、自民党の議席数を大幅に増やした立役者だったが、アルコール中毒で党首を引いた人物だ。ケネディは、自民党が保守党と連立政権を組むのに反対だった。

2011年5月に行われた、選挙制度を自民党に有利なAV制に変える国民投票は、自民党が連立政権を組む際の条件であったが、保守党は反対に回った。その反対運動の戦術は、かなり汚いもので、クレッグへの個人攻撃が行われ、自民党の大幅な支持率の低下もあり、AV制は大差で否決された。この汚い戦術に非常に強く反発したのはアッシュダウンだった。今回のキャメロン首相のEU拒否権行使で最も強く反発したのはアッシュダウンだ。最も親EUの立場を取る自民党にとっては、キャメロン首相の拒否権行使は、非常に大きな打撃だ。キャメロンに拒否権を行使できる立場を与えたのは、自民党であり、この意味で、自ら招いた結果とも言える。

アッシュダウンは、12月11日付の日曜紙オブザーバーに投稿し、政府は、これまでの38年間の外交政策をどぶに捨てたと批判した。ほとんど怒りとも言える内容である。しかし、老練政治家は、それでも連立政権は堅持していかなければならないと言っている。ここに大きなカギがあるように思われる。その理由は次のものだ。

まず、自民党が連立政権に参画して以来、自民党の支持率は大幅に下降した。これは予想以上であったが、時期が経てば回復するとの期待があった。しかし、大学の授業料大幅値上げ問題に見られるように、選挙前に、自民党下院議員全員が反対すると学生組合に誓約したにもかかわらず、クレッグ以下ほとんどが賛成に回り、自民党の一般の評価を下げた。この問題などもあり、支持率は上がらない状態のままだ。それでも2015年の次期総選挙までには、政府の財政緊縮も終え、低所得者への非課税枠を拡大するなど、政府での自民党の業績と成果を有権者に示せるとの見込みがあった。ところが、ユーロ危機などの問題で、経済回復が停滞し、その結果、オズボーン財相は、当初の2015年を超えて、さらに2年間の緊縮財政が必要だと述べるに至った。この結果、自民党が次期総選挙でその政府内での役割を声高に訴えることが極めて難しくなっている。

その上、下院の選挙区がこれまでの650から600に減らされ、選挙区の有権者の数を均等にすることが法制化された。その選挙区区割り案が発表され、その公聴会も各地で行われた。この選挙区割りは、最終確定していないが、大地域ごとの議席数は既に確定しており、区割り案とほぼ似たものとなる見込みだ。この区割りで、予想に反して、最も大きな打撃を受けると見られているのは自民党だ。ある専門家は、現在の議席の4分の1をこのために失うと見ている。選挙区サイズの均等化は、もともと保守党が総選挙前から主張していたものだ。連立政権交渉で、自民党の要求したAV制の国民投票を実施するかわりに、もしAV制が導入されると不利になると思われた保守党の失地を回復するために、自民党が受け入れたものだ。しかし、AV制が国民投票で否決された後、この選挙区区割りで保守党が最も有利となる。一方、自民党は、この新制度で選挙を行えば、ただでさえ支持率の低下で大幅議席減が予想されるのに、それに輪をかける結果となる。つまり、自民党は、この新制度の下での総選挙を避けたい。任期満了の2015年5月の総選挙を想定して選挙区区割りは準備されているので、それまでにこれを阻止する行動に出る必要がある。2015年までの5年間の定期国会法が成立しているが、もし自民党が首相の不信任案に賛成すれば、政権は崩壊する。

今回のキャメロン首相のEU拒否権問題で再認識されたのは、多くの自民党関係者や自民党に関心のある人たちが「いったい何のための自民党なのか?」という疑問を強く抱いているということだ。こういう状態では、自民党の支持率の回復は到底望めないだろう。この事態を打開するには、連立政権を、「正当な理由で」、「最もふさわしい時期」に出る必要がある。もちろん、総選挙があれば、自民党は、大きく議席を失うだろうが、これはあくまでも打撃を最も小さくしようとするもので、自らの主導権でタイミングをはかるものとなる。そこから自民党は党の立て直しに入ることとなろう。

もちろん、今は、その時期ではない。国民の多くは、キャメロンのEU拒否権の行使を支持しているからだ。アッシュダウンは、このような戦略を描いているのではないかと思われる。

2011年12月11日


EU拒否権を行使して孤立した英国(Cameron’s gamble)

12月9日(金曜日)の朝6時のニュースで、キャメロン首相がEUサミットで拒否権を行使したと聞いて驚いた。欧州統一通貨ユーロの危機を救うことが主目的のサミットで、キャメロン首相は、独仏の提案した、関係国の財政自主権を制限する新条約に反対し、EU27か国の中で孤立したというニュースである。英国は、1973年にEUの前身のEECに加入して以来、拒否権を使うのは初めてのことである。

キャメロン首相は、この新条約は、英国の国益、特に金融関係(英国のGDPの10%を占める)を弱める可能性があり、英国の要求を拒否する以上、拒否権を行使するしかないとした。これは、英国内の多くの人々、並びにドイツのアンゲラ・メルケル首相とフランスのニコラ・サルコジ大統領にも予想外だった。キャメロン首相は、直前に拒否権行使も辞さないと発言していたが、これは、キャメロン首相の保守党内で強い勢力を持つEUとの関係を見直すべきだという欧州懐疑派を宥め、サミットでの交渉を有利に進めるための戦術だという見方が強かったためだ。

この拒否権行使で、英国内の欧州懐疑派は喜び、国民もそれに賛成している。12月11日のメイル・オン・サンデーの世論調査によると、62%が支持し、反対したのはわずかに19%だった。しかし、この拒否権行使で、英国はEUとの関係を根本的に変えることとなった。EU内での影響力が大幅に減り、特に中心国の独仏との関係が極めて悪くなった。

この拒否権行使の結果、英国がどうなるかは、専門家の中でも意見が異なる。しかし、間違いなく言えることは、EU一丸のユーロ危機解決策に参加を拒否した結果、ユーロ危機が深刻化する可能性に力を貸したということだ。ユーロが崩壊すると、ユーロに加盟していない英国もGDPが2年間で7%減少する可能性があると見られており、英国の立場は極めて不安定と言える。

しかし、英国内の政治状況を見ると、キャメロン首相の決断は、やむをえないものと言える。特に10月に下院でのEUとの関係に関する国民投票を行うという動議で、キャメロン首相が党所属議員に必ず反対投票するよう命じたにもかかわらず、81人もの保守党議員が賛成票を投じた。保守党内での欧州懐疑派の力は強まる傾向にある。これを受けて、キャメロンは11月14日のスピーチにも見られるように、ユーロ危機を利用してEUから若干の権限を取り戻そうとしたぐらいであったが、これは、事態を見誤っていたためだ。これがキャメロン首相を苦しい立場に自ら追い込んだという点は否定できない。

一方、2010年5月の、自民党との連立政権合意書でも、これ以上のEUへの権限の委譲は、国民投票なしでは行わないと明言し、それを英国の2011年EU法で法制化した。この法の公式説明書の48項で明示しているように、EUで経済、雇用政策に関する協調を進める場合には国民投票が必要だ。
(http://www.publications.parliament.uk/pa/bills/lbill/2010-2011/0055/en/2011055en.pdf#search='European Union Act 2011 paragraph 48 Explanatory Notes')
問題は、この時点で、そのような国民投票をするのはふさわしくなく、また、その準備もできていないことだ。EUとの関係は英国にとって極めて大切なもので、現在の状況を変えたくないのが本音だ。また、連立政権を構成する自民党を刺激したくない。

自民党は親EUであり、政権の危機を招くという見方がある。しかし、現在の世論の支持率から見ると、自民党が反旗を翻し、連立政権の解消、総選挙に向かうという可能性は少ない。2010年総選挙で、自民党はその支持率を増やしたものの、それまでの62議席から57議席に減らした。自民党は連立政権参加後、支持率が半分以下に下がっており、もし現在、総選挙があれば、議席数が10台にとどまる可能性がある。こういう状態では、常識的には選挙はない(この点については別項で改めて分析する)。

私は、キャメロン首相の取った判断は、大局的に見れば正しいと思う。特にEUの官僚が、それぞれの国の財政に細かく首を突っ込んでくるのはおかしい。むしろ、EUは、それぞれの加盟国が、自主的に財政を強化する体制を目指すべきだ。確かに、ドイツが財政支援しやすい体制を作る必要があり、危機に直面したユーロを守るために直ちに取り組め、金融市場が支持しやすい枠組みを作ろうとするのは理解できる。しかし、それがために硬直したEU制度を作り、将来への禍根を残すべきではない。英国は、これまでの影響力を失い、新しい将来像を模索しなければならないという課題があるが。

2011年11月16日

民主党政権の「政治主導」?(Japanese Democrats’ Misunderstandings 1)

2009年の総選挙で政権についた民主党は、英国流の政治を導入しようとしたようだ。「官僚主導」に代わって「政治主導」を行おうとし、さらにマニフェストに基づく政治を推進しようとした。これまでの政治から新しい形の政治のやり方に取り組もうとしたその意図は評価されるべきだが、どうも「英国流の政治」が何かを誤解していたために、これらはうまく機能しなかったように思われる。

まず、「政治主導」を行おうとすれば何が必要だろうか?首相並びに閣僚、そしてそれに次ぐ政府の要職に就く政治家の人々が「主導」するために必要なものだ。まず必要なのは人材だ。大臣として省を率いて行くことのできるリーダーシップのある人がいるだろうか?「官僚主導」の体制の構造と問題をよく知り、これまで知識を蓄積し、経験を積んできた官僚に対抗できる頭脳のある人がいるだろうか?実際のところ、英国でもこれらの質問にYesと答えられる場合はそう多くないと思われる。しかし、英国の制度には、人材を育てる仕組みが内在している。例えば、野党の影の内閣のメンバーは、下院で大臣らと丁々発止の議論を交わす過程で、それぞれの省の仕事を深く理解していくことができる。また、政策に関しては、政党内部で政策を作るためにスタッフがおり、それを可能にするショートマネーと呼ばれる補助金などが提供される。2010年5月の総選挙後、自民党が連立政権に入り、与党となったためにこの補助金が受けられなくなり、政策スタッフを多数解雇する必要に迫られたことがあるが、「政治主導」のためには、それぞれの政党がきちんとした政策を作ることが重要だ。また、英国には多くのシンクタンクがあり、政策を供給し、また、それぞれの政党の政策への批判がかなり活発に行われる土壌がある。一方、日本では、官僚が政策スタッフ並びにシンクタンクの役割まで担っている面があるように思われる。さらに、英国では、マスコミのそれぞれの政党の政策に関して批評する能力が高く、例えば、新聞紙では、それぞれがかなり異なった視点で評価し、その結果、かなり幅広い分析が行われる傾向がある。これらの条件が「政治主導」のひとつの背景となっていることを忘れてはならないだろう。

さらに、英国の政治の基本は、国家公務員はその省の大臣に対して責任を持つが、大臣は、国会に対してその省の責任を持つ。つまり、大臣の国会に対する位置づけが極めて明確だ。議員は政府に対して質問があれば、担当の職員に連絡して聞くのではなく、大臣に手紙を書く、もしくは議会で口頭の質問をする。国家公務員は、時の政権の大臣に対して仕えるからだ。もちろんサッチャー元首相も好んで見たと言われるテレビシリーズ「イエス、ミニスター」や「イエス、プライムミニスター」にあるように官僚と大臣との狐と狸の化かし合いのようなことはあるけれども。大臣たちにはレッドボックスと呼ばれるブリーフケースで、担当省、または担当部門に関する書類が次々送られ、大臣たちはこれらの書類に目を通し、決済する必要がある。これらの過程で、自分の担当省の内容を細かく理解することになる。

なお、財源の問題について、2010年の総選挙で保守党は、保守党が政権についた場合の政府の予算カットの財源として、保守党のために政府の無駄削減策を提言している元官僚の提案を入れ、それに基づいた数字を公に使っていた。ところが、英国の有力新聞フィナンシャル・タイムズ紙がこの人物に直接これらの数字について問いただしたところ、その数字がかなりあいまいであることがわかった。例えば、保守党は、国家公務員の削減は、定年や退職などの自然減で達成できると主張していたが、この計算の前提となる条件が適切ではないことがわかり、専門家が、大幅な人員解雇が行われなければその目標値は達成できないと指摘した。また、政府の契約関係の見直しで20から30億ポンド(2~3千億円余り)のお金が削減できるとの元官僚の計算は、連立政権が発足して見直しを始めた結果、契約解除や変更が予想ほど簡単ではなく、ほとんど無視できるほどのお金しか削減できなかった。これらに見られるように、英国でも野党は財源問題に苦しむ。問題は、政権の財政削減の目的が達成できるかどうかにあり、この点では現在の連立政権はこれまでのところ成功しているように見える。

財源問題では、ある程度似通った問題があるとはいえ、英国と日本とでは基礎的な条件がかなり異なっており、いきなり英国政治の一局面だけを捉え「政治主導」として日本にあてはめようとしても実際に運用できるだろうか?英国で長年の間に生まれ、育まれ、それぞれの時代に合うように変えられてきた慣習や条件なしに、「政治主導」のスローガンを唱え、その責任を与えようとするだけでは、その精神の導入はかなり困難だと言わざるをえない。

選挙区区割り委員会の公聴会(Boundary Commission’s public hearing)

英国では、下院の選挙区定数を650から600に減らし、しかも選挙区の有権者の数を均等にする法が成立した。そしてこれに基づく選挙区区割り案が、イングランドなどの選挙区割り委員会から発表された。その公聴会が各地で開かれている。その公聴会の様子を見に行った。

この公聴会は、ロンドン南西部のワンズワース区の区議会議場で行われた。この区に関わる4つの選挙区、それぞれ新選挙区名でパットニー、バタシー&ヴォクソール、クラッパムコモン、ストレッタム&テューティングの区割りに関するものである。

選挙区区割り委員会で行っている区割りは基本的に、区議会議員も含め、地方自治体の議会議員を選ぶ現在の区域(Ward)に基づいている。地方議会議員は、その地方自治体全体の選挙区から選ばれるのではなく、その中の小さな区域に分けられた選挙区から選ばれる。例えば、ワンズワース区では、それぞれの選挙区から区議会議員を3人ずつ選んでいる。このような地方議会議員の選挙区域を基にして、下院議員の選挙区を有権者の数が均等になるようにモザイクのように作っていく形となるである。これは、コンピュータで行われるが、例外的な場合を除いて、飛び地を作らず、隣接する地方議会議員の選挙区割に基づくことになるために、この下院の新しい選挙区区割りはかなり制約されている。

さて、ワンズワース区議会の議場は半月型で議員の議席が中央の議長席をくるりと囲むようになっている。公聴会では、その議長席にバリスター(法廷弁護士)が座り、その横に区割り委員会の職員が座っている。発言者は、議長席と議員席の間に用意されたマイクまで行き、そこで発言する。発言の記録を取る職員がその近くに座っている。

このバリスターが司会進行役も務め、発言者にコメントを促し、会場にいる人たちに関連の質問やコメントがないかも聞く。区割りの公聴会ではバリスターが出席するのが恒例だが、この女性バリスターは、非常に巧みに話を進めていく。英国では、バリスターが裁判官をパートタイムで勤めることが多いが、そういう経験が豊富な人のようだ。

この日の公聴会は、午前11時から始まり、午後8時まで、そして翌日の第二日目は、午前9時から始まり、午後5時終了予定である。2日間で終了する。会場に入るには、氏名、住所、そして政党との関係を書く必要がある。発言する予約をしているかどうか口頭で聞かれた。中に入ると十数人程度の人がいるだけだった。

一般に、公聴区割りの公聴会では、大きく分けて、政党関係者とそれ以外の一般の人が出席する。私の出席した公聴会でも一般の人が発言したが、一つの選挙区が横にかなり長いので、選挙区としては不都合だという自分の見解を述べた。政党関係者は、それぞれの選挙区が自党に有利になるかどうかが最大の関心事であり、自党が有利になるような選挙区区割りを求める。

この日の公聴会では30人足らずの人が発言し、発言者が途切れたところで、午後7時15分ごろに終了した。これも民主的なプロセスではあるが、単なる手続き上のものだけではなく、関係者によると、区割り委員会は、その区割り案に固執することなく、本当によい意見は取り入れて修正するそうだ。

2011年11月14日

政治家が信用を失う時(When a politician loses his/her authority: Theresa May)

テレサ・メイ内相の立場が危うくなっており、辞任もあり得る状況だ。入国条件緩和の問題で内務省元幹部と対立する事態がかなり深刻になってきており、キャメロン首相にもその火花が飛び散る可能性もある。この問題を通じて、英国の大臣がその権威を失う一つの例を見てみよう。

これは入国管理の問題に端を発した問題だ。この問題の背景を簡単に見てみたい。これまで長期間、英国への入国条件がかなり緩やかであった上、1990年代に出国管理を廃止した結果、入国した人が今も国内にいるかわからない状態にある。また、近年、移民、つまり英国に外国から来て住む人の数が非常に多くなっており、一年に2~30万人、入りが出より上回っている。これが他の欧州先進国同様、社会的に大きな問題となっており、英国でも、外国からの移民に反対する極右政党へ支持が集まる背景となっている。2010年の総選挙でも、移民問題が大きな争点の一つとなり、保守党はこの移民増を一年に10万人以下に抑えることを公約の一つとした。一方、自民党は、選挙期間中に主要三政党の党首討論で、党首ニック・クレッグが大人気を博し、自民党の支持率が大幅に上昇したが、長期不法滞在者に在留権を与える公約が大きな批判を浴び、選挙で予想外に少ない議席しか獲得できなかった原因の一つとなった。さらに労働党も当時首相のゴードン・ブラウンが移民問題に神経質となっており、ある労働党支持者の移民政策に関する質問に腹を立てたことがわかり、その質問者の名前からダフィーゲートと呼ばれるほどの大きな騒動となった。

今でも移民問題は有権者の最も大きな関心事の一つである。総選挙の結果、第一党の保守党が過半数を制することができず、自民党との連立政権となったが、キャメロン首相は担当の内相に党の幹事長などを務めたベテランのテレサ・メイと長年影の移民担当相を務めてきたダミエン・グリーンを配し、保守党の政策を推し進める姿勢を見せた。ところが、入国する学生の受け入れの監視を厳しくしたり、労働ビザをの発給を厳しくしたりするなど手を打っているが、現在までのところ効果は上がっていない。EUの加盟国としてEUからの入国は制限できない上、世界経済の低迷から英国から外国へ移る人の数が大きく減っていることもある。政府は2015年までに公約を達成すると主張するが、それが実現できるという見方をする人はほとんどいない。そのため、政府はこの問題に非常に神経質になっている。

さて、今回の問題には二つの側面がある。まず、内相が入国審査で一律のチェックを行うのではなく、重点チェックをするために一部のチェックを緩和することを許可したことだ。もう一つは、内務省の幹部が、内相の許可を得ることなく勝手に入国審査のチェックを緩和した疑いだ。この2番目の問題で、その幹部は停職処分を受け、移民監査監が事態の調査に入ることになった。ところが、下院の内務委員会で、内相が移民審査監の調査結果の報告を待つことなく、この幹部が勝手にルールを緩和したと明言したことから、この幹部が職務継続不能だと辞職し、不当に取り扱われたと裁判に訴え出ると声明を発表したため、非常に大きな騒ぎとなった。

まずは、第一の点だ。実際の効果はともかく、内相がルールの緩和を許可したことから内相が移民問題で手ぬるいという印象を与えたことは否定できず、世論対策上マイナスであることだ。さらに第二の点で、手堅いはずの内相が、何らかの理由で調査の結果を待たず、内務省幹部の責任を直接問うというミスを犯したために、裁判では、この幹部が「不当に扱われた」という事実が認定され、勝つのはほとんど間違いない状態だ。

私の眼には、内相が、比較的小さな問題、ルールの緩和を許可したという事実があるために、世論対策上の点から、幹部への強い批判でそのマイナスをカバーしようとした結果、それが大きな逆効果を生むことになったように見える。もちろんこの問題は、未だに進行中であり、今後の展開は必ずしも予測できない。しかし、小さな問題を隠そうとして取った手段で問題がはるかに大きくなり、政治的に非常に大きなダメージを受けるというケースがかなりある。最近の例では、連立政権で閣僚職の財務副大臣となったデービッド・ロウが同性愛者であることを隠すために議員経費として住居費を受け取っていたことがわかり、経費のルールに反するとして閣僚職を辞任した上、その行動を調査された事件がある。

今回の内相の事件で思い出すのが、1990年代の同じく保守党政権で内相だったマイケル・ハワードだ。刑務所から囚人が脱走した事件で、自分の職権を越え、外局である刑務所サービスのトップにその刑務所の所長を辞めさせるよう指示した疑いがあった。あるテレビ番組でその点を質問され、17回同じ質問を受けたにも拘わらず、答えなかった。結局、この問題でハワードは政治的に非常に大きく傷ついた。

小さなはずの問題が、何らかの対応の失敗で非常に大きな問題となることが多々ある。大臣の職にある者は特にルールに則り、適切に対応するように努めることが大切だと言える。

2011-10-16

小政党が連立政権に入るリスク(What will happen if a small party joins a coalition?)

自由民主党(自民党)が保守党との連立政権に踏み切った時、英国の隣の国アイルランドの閣僚が自国での連立政権の経験をある会合で語った。その際、ジュニア・パートナー(連立政権の中の小さな政党)の立場の難しさに触れた。アイルランドの小政党、進歩的民主党が1989年に初めて政権に入ったが、それ以来、得票数を減らして2007年の総選挙で惨敗し、ほどなく解散したのである。連立政権ではジョニア・パートナーの存在意義が薄れ、選挙基盤を失っていく可能性が大きい。英国の連立政権のジュニア・パートナーである自民党は左と見られていたが、右寄りの保守党と連立を組んだ結果、選挙基盤を大きく失ったようだ。

9月末の労働党の党大会で、副党首のハリエット・ハーマンが、自民党は保守党の「汚い仕事」をしていると攻撃した。自民党は、保守党のブレーキ役を果たしていると自慢しているが、大学授業料を上げ、付加価値税(VAT)を上げ、警察の予算を削減し、NHS(国民医療サービス)の改革で何が起きただろうか?自民党のブレーキは明らかに利いていない、と主張したのである。確かにこれらの政策は、自民党が政権に加わっていなければ実施できていない可能性が強い。保守党の中には、連立政権の政策へ自民党の影響力が強すぎると批判する人が多いが、一般の人の目には、特に昨年5月の総選挙で自民党に投票した人の中には、自民党に厳しい目を向けている人がかなりいる。それが総選挙時の23%の得票率から現在の極めて低い10%前後という支持率につながっている。

3党の党大会終了後、タイムズ紙がロンドン南西部のトゥーティングでフォーカスグループを行った。7人の浮動票の有権者を集め、3党首の演説の抜粋を聞いてもらい、その後、それぞれの意見を出してもらったのである。その中で、自民党のクレッグ党首の演説が最も低い評価を受けた。私の見たところ、クレッグの演説は、少なくとも労働党のミリバンド党首よりはよいと思われたが、タイムズ紙によると、7人全員が演説を聞く前にクレッグが最低と決めてかかっていたという。

クレッグは、総選挙前、それまでの保守党と労働党の二大政党政治から自民党も入れた多数政党政治へ変わると主張していた。それどころか、現在では、自民党の支持を総選挙前の状況に戻すには少なくとも10年かかるとの見解もある。英国の自民党の例で言えることは、連立政権へ参加することは、小政党の運命を大きく変える可能性があるということだ。

新婦の実家で行われた結婚式に招かれて

9月の初め、友人の結婚式に招かれた。妻と僕は新郎新婦の両方をよく知っている。式は、英国イングランドの中西部の新婦の親元の街で行われた。

結婚式場の英国国教会の教会は、かなりの年代物で、落ち着いたたたずまいの中にあった。入り口を入ると、テキパキと話す年配の女性が式次第を渡してくれた。かなり早く着いたので、ほとんど人はいなかった。どのあたりに座ったらよいかたずねて席に座り周囲を見回した。小ぢんまりとした教会で、縦が30メートル、横が8メートルぐらいだが、縦の半分は祭壇などがあり、式が始まる前に人で一杯になった。誰もが着飾っている。新郎のベストマンたちは3人いたが、みんな同じようなグレイの背広に同じ柄のチョッキを身に着けている。ブライズメイドも3人。全員同じブルーの肩だしドレスを着ている。

司祭が出てきた途端、誰か知っている人に似ていると思ったが、それが誰だかなかなか思い出せなかった。話し始めて、そうだ、下院議長のジョン・バーカウだと思いだした。物腰や話し方が非常によく似ている。妻にそう話すと、本当によく似ているわね、と言った。妻と私は、国会会期中、週に一回ある首相のクエスチョンタイムをビデオで録画して一緒に見ている。

午後2時から式が始まった。音楽とともに新婦がその父親と入場してきた。驚いたのは、父親が上院議員のティベット卿にそっくりだったことだ。ティベット卿は、サッチャー元首相の内閣で閣僚や保守党の幹事長を務めた人で、今でも時々マスコミに出てくるのでなじみがある。披露パーティの最中に、新婦の父親と話をしたが、ティベット卿の厳格なイメージとは異なり、物腰の柔らかい人だった。新婦は医師だが、お父さんも医師だ。大学でドイツ語を学んだが、その時のクラスメート2人の子供が日本語を話すそうだ。日本の震災や津波の被害へのお悔やみの話もあった。

さて、教会での結婚式は1時間ほどで終わった。小さな教会だが大きなパイプオルガンがあり、それとピアノが使われ、しかもバイオリニストがおり、音楽はすべて生演奏だった。日本の結婚式と同じ音楽が演奏される。讃美歌も謳われたが、クリスチャンでない僕はただ聞くだけだ。しかし、雰囲気は良い。結婚式のメインとも言える、新郎新婦が誓いの言葉を交わす際には、司祭が先に数語ずつ言葉を言い、それをそのままそれぞれが復唱する。これはウィイアム王子とケイト・ミドルトンが結婚した時も同じだった。今日は、司祭が順番を誤り、やり直すというハプニングがあった。

教会を出てから、披露パーティ会場の新婦の実家に向かった。新郎新婦はリキシャに乗った。二つの座席がついた乗り物を自転車で引っ張るものだ。僕たちは友人の自動車で移動したので新郎新婦より先に着いたが、その途中、リキシャを追い越した。少し坂があり、自転車のペダルを踏んでいる人は大変だろうと思ったが、到着した時には汗びっしょりだった。

新婦の家の周辺はかなり大きな家がいくつもある。着くと、随分大きな家で、まさしくお屋敷という感じの家だった。入り口から家まで30メートルぐらいある。その家の横のパティオ部分と裏側の広場、まさしく広場という感じだが、そこでドリンクが提供された。10人ほどの人が給仕して120人ぐらいの出席者にシャンペンと様々なカナッペが振る舞われる。シャンペンのボトルを抱えた給仕が、出席者の間を回り、空になったグラスを満たしていく。それはカナッペも同じで、手の込んだカナッペが大きな皿に盛られ、給仕が持って回る。見ただけでは何かよくわからないので、給仕の人に何ですか、と何度も尋ねた。

この間に僕は大きなミスをしでかした。これまでに何度か話したことのある女性のお腹が出ていたので、おめでたですか、と聞いたのだ。その女性は愕然とした。「えー!」と言った。その瞬間、僕は大失敗したと気付いた。着ていた服のために、お腹が強調されて出たように見えただけだった。つまり、僕は、あなたお腹が出ていますね、と言ったのと同じことをしたのだ。後で妻に叱られた。あの人は50が近づいているのよ、と言われた。こういうことは、思っても口に出してはいけないことだった。

全体の写真や個別の写真がいたるところで撮られており、ドリンク接待が2時間ぐらい続いた。そしてその後、その広場の後ろに設営されたマーキーと呼ばれる大テントに全員が入り、披露パーティが始まった。この大テントは、中途半端なものではなく、中には床があり、カーペットが敷かれている。また、舞台が作られており、そこで生バンドが演奏され、ダンスもできるようになっている。大テントの横には調理場がついているようだ。トイレはポータブルだが、高級という名前にふさわしいものが用意されていた。

大テントの中には、十幾つかの丸テーブルが設けられており、入り口の座席表に従って10人程度ずつ座るようになっていた。乾杯の後、本格的なパーティが始まった。真夜中まで続く。

パーティの途中、新鮮な空気を吸おうと外に出た際にわかったのだが、この大テントの後ろには全天候型のテニスコートがあった。その周辺を高さ4メートルほどのフェンスが囲んでいる。新婦からホッケーをよくしているという話を聞いたことがあるが、恐らくテニスもかなりできるのだろうと思った。

大テント式の結婚披露パーティは、英国では、かなり行われている。しかし、これが安価なオプションかというと決してそうではない。まず、そのような大きなテントが立てられるだけの庭が必要だ。食べ物を作り、給仕するケータリングサービスも必要。この結婚披露パーティでは給仕などケータリング関係者が20人ぐらいはいたように思う。電源も延長コードで物足りるようなものではなく、特別な240ボルトの電気配線も必要だ。一度だけのパーティのために多くのものが特別に準備されなければならない。これらの理由で、大テント式の結婚パーティは、きちんとしようとするとかなりの費用がかかる。そのため、中流でもかなり上の方の人たちやお金持ちの人が使う傾向がある。自分の家の庭で行うのは、それだけ寛げるという利点はある。近所からの招待者もわざわざ遠くまで行く必要がない。

英国では、結婚披露宴の費用は伝統的に新婦側の親が持つ。新婦側の親にとってはかなりの負担だ。僕の隣に座った、知人の女性に、そのことを聞いてみた。自分も大テント式で親の家の庭で結婚披露宴をしたというが、その費用は自分の親が持ったという。新郎側は花の費用を出したぐらいだそうだ。

料理はお仕着せの料理ではなく、かなり手が込んでいる。フェタチーズの入ったサラダから始まった。これには、日本でおつまみによく使われるわさび豆も入っており、そのコンビネーションは意外だったが、おいしかった。英国では日本の食材が様々な形で使われている。その後、タジン鍋の子羊肉、カネロニなどがビュッフェスタイルで出された。青梗菜の入った炒め物には、青梗菜にちょうど良い加減で火が入っており感心した。そしてお腹いっぱい食べた後、デザート。ウェディングケーキやベリーのデザートが出された。スピーチはその後、始まった。日本でよくあるような、仲人などからの新郎新婦への将来のアドバイスのようなものはなく、新婦の父親のスピーチ、新郎のスピーチそして新郎のベストマンのスピーチと続いた。新郎のスピーチには、関係者やお世話になった人たちへの個別の感謝の言葉が入っており、非常によく準備されていると思った。後で新郎にそのことを話すと、実は原稿はもっと長かったが、短くするようアドバイスされてかなり減らしたとのことであった。スピーチが終わるとバンドが入り、ダンスも始まった。老若男女、新郎新婦、それに新郎新婦の両親らもダンスを始め、あまりダンスをしたことのない僕も加わった。一方、ドリンクと食べ物は引き続き提供されており、英国のフルーツスコーンとコーニッシュクリームなどが出された。

結局、僕たちは午後12時前にホテルに向かった。パーティはまだ続いていた。新郎新婦は、翌日から新婚旅行でハワイに向かう。日本からハワイは比較的近いが、英国からはアメリカ経由で行かねばならず、かなり遠い。僕たちを新郎新婦二人が見送ってくれたが二人とも幸せそうだった。

2011-9-27

日本が英国自民党の失敗から何を学ぶことができるか?(What Can Japan learn from Clegg’s Mistakes?)

英国の第3党、自民党の苦境から日本の政治が学べることがあると思われる。特に政党トップの意思決定に関することだ。自民党は、2010年総選挙後、党首クレッグのキャメロン保守党党首なら一緒に働けるという一種のフィーリングで保守党との連立に踏み切った。しかし、この決断のために自民党はその支持基盤を大きく揺るがせることとなった。

自民党は、近年、保守党と労働党の2つの大政党に飽き足らない有権者を惹きつけ、成長してきた。そして2010年総選挙では全体で23%の票を獲得した。しかし、保守党と連立政権を組んで以来、多くの支持者を失い、支持率は現在10%前後である。支持率は当然増減する、時間が経てば再び回復すると期待する向きは特に自民党に多いが、既に「汚染」されてしまった自民党への支持が急に回復すると見る人は少ない。2011年5月の地方選挙で自民党は40%の議席を失ったが、2012年の地方選挙でもさらに大きく議席を失うと見られている。地方議員は、自民党の足腰であり、その減少は、非常に大きな痛手だ。

クレッグの失敗は、総選挙で自民党に投票した有権者の期待がどのようなものだったか十分に把握していなかったことだ。総選挙後、選挙中のクレッグブームで大きく支持を伸ばしたように見えた自民党がなぜ予想外に低い議席数しか獲得できなかったのかの分析の混乱があり、はっきりと自民党の状況を把握することが難しかったこともある。しかし、フォーカスグループという世論の意識調査の方法や、それと併せた世論調査で、それを見極めることは可能だったと思われる。

フォーカスグループとは、ブレア元労働党党首・首相の下で、世論のトレンド分析を担当したグールド卿が草分けだが、少人数の様々なバックグラウンドの人を集め、自由に意見を言ってもらい、全体の意見を探る手掛かりに使う方法である。ブラウン前首相の下で世論調査を担当していた人が、その著書の中で、ブラウンがフォーカスグループで集めた結論を無視してそれとは反対の政策を打ち出し、それが、2007年秋に総選挙を断念する結果となったことを明らかにしているが、時に、大きな政治的な転機を生む可能性がある。もちろん、これに頼りすぎることには問題があるが、政治家の勘やフィーリング、さらに少数の側近の見解に頼る旧来の方法よりはるかに科学的だ。日本でも、有権者の期待を慎重にはかり、その上で政治的な決断をすることは極めて大切だろうと思われる。

2011-9-23

自民党の行方(Then, What Can Lib Dems Do?)

これまで2回にわたり、2010年5月の総選挙後、保守党と連立政権を組んだ自民党の問題を見てきた。自民党は、支持率を大幅に減らし、いかようにも動きようがない、極めて苦しい立場に陥っている。保守党と連立すると決めたのは、党首のニック・クレッグであるが、自民党の党則に従い、党の連合幹部会(The Federal Executive)の支持を得た。その上、必要なかった臨時党大会まで開いて保守党との連立の了承を得たという経緯があるが、クレッグの党首としての責任は免れない。

その臨時党大会では、二代前の党首、チャールズ・ケネディが保守党との連立に反対した。ケネディは、アルコール中毒のために党首を辞めたが、優れた政治的感覚の持ち主だ。その前の党首パディ・アッシュダウンから引き継いだ党を2回の総選挙を経て、順調に成長させてきた。しかし、ケネディの声は、少数派にとどまった。もちろん、この背後には、アッシュダウンらの用意周到な根回しがあったと思われる。

今回の党大会中、党首クレッグを他の人と交代させようとする動きが報道された。このままでは自民党は、次期総選挙が新選挙区割りで行われても、現状の区割りで行われても大敗するのは間違いないと考え、それを避けようという動きだ。これを「汚染除去」と呼ぶ人がいる。連立政権に参画して自民党が「汚染」されたので、その汚染を除去しようというのである。確かにこれは一つの対策だろうが、その効果は限定的だと思われる。クレッグを除去しても、その「汚染」は完全には払しょくできないからである。クレッグの連立の決断の前、政治的コメンテーターのほとんどは、自民党が保守党と連立政権を組むことに懐疑的だった。自民党員や支持者の反対を予測したことと、有権者の多くが自民党に期待したものとかなり異なっていたためである。

有権者の多くは、自民党と労働党を似た政党と捉え、保守党に対して反対する勢力として位置付けていた。そのため、自民党支持者が労働党に投票する、またその逆は、かなり広範囲に行われており、これはタクティカル・ボーティング(戦術的投票)として選挙を決める重要な要素と考えられていた。その結果、2010年の総選挙で自民党に投票した人のかなり多くは、自分は保守党を支えるために自民党に投票したのではない、と感じている。これらの人たちが、自民党への支持をやめたことが、自民党の支持率が23%から10%へ減少した大きな原因になっている。

また、自民党は、きれいごとを言うが、それなりの原則があると考えられており、その点で有権者から一定の敬意を受けていた。それが、保守党との連立によって、大きく「汚染」されてしまったのである。つまり、「汚染」の原因をクレッグと考えて、それを除去すれば問題が解決するかというと、決してそうではないということだ。自民党の「対保守党」のスタンス、さらにその党としての原則が「汚染」されてしまったからである。

一方、今でも自民党の党員や自民党を支持している人たちが党首からクレッグを引きずりおろしたいと考えているかというと必ずしもそうではない。むしろ、連立政権内での自民党の役割を評価している人が多い。特に、9月19日のタイムズ/Populus世論調査では、保守党の少数与党ではなく、保守党と自民党の連立政権ができてよかったと考える自民党支持者は81%もいる。つまり、自民党の中では、クレッグの連立参加への決断を疑問視する声は少数にとどまっている。この状況下では、クレッグを引き下ろそうとするのはかなり難しい。また、英国の政治では、一般に「暗殺者はトップになれない」と言われる。つまり、クレッグを倒そうと誰かが名乗りを上げれば、その人はトップに選ばれないということだ。その近年の代表的な例は、サッチャーを倒そうとしたマイケル・ヘーゼルタインである。このため、現労働党党首エド・ミリバンドの兄のデービッドは、2009年に立てば、人気を失ったゴードン・ブラウンを倒す可能性がかなり高かったにもかかわらず、躊躇した。それと同様、例え、クレッグの党内での支持がかなり弱くなったとしても、それだけで対抗馬がすぐに立つとは考えにくい。

しかし、現在の支持率のレベルが継続すると、結局は、クレッグが自分から党首を退くということになろう。ただし、それは相当先のことだ。9月15日に定期国会法が成立し、基本的に5年間の会期となった。そのため、次の総選挙は、予定通り2015年の5月ごろに行われることになるだろう。あと3年半余りある。この期間に、クレッグは、自民党の政権内での貢献度をアピールし、支持を回復するよう精力を絞ることになる。ただし、一度「汚染」したイメージは、そう簡単には除染できない。保守党が1997年の総選挙で大敗して以来、「嫌な党」のイメージが今でも完全には拭い去れていないのと同じだ。最近発行された「ニック・クレッグ:伝記」は、クレッグの妻がこの期限りで党首・副首相を退くように嘆願し、クレッグがそれを受け入れたと言うが、クレッグはそれを否定し、次の総選挙後も党首を継続すると主張した。もちろん、クレッグには、それ以外の答えはないだろうが、クレッグの去就が、今後とも大きな課題であるのは間違いない。なお、英国では何事にも賭け屋が出てくるが、クレッグが次期総選挙前に党首を辞める賭け率は、賭け屋大手のウィリアムヒルによると、1-3で、その可能性はかなり低い。

2011-9-20

苦しむ自由民主党(Lib Dems’ Agony)

連立政権の副首相ニック・クレッグの率いる自由民主党(自民党)の支持率は、2010年5月の総選挙時の23%から現在の10%前後に大きく下落した。自民党の支持率は連立政権参画後、徐々に下降し、2010年9月ぐらいから現在のレベルに落ち着いている。その後、11月に大学学費値上げに関する学生の激しい抗議デモがあった。自民党の議員たちは、総選挙前に大学学費値上げに反対するという誓約書を大学生組合と交わしていたが、それを破ったことをマスコミは大きく報じ、自民党のイメージをさらに大きく傷つけた。党首クレッグは特に傷ついた。自宅のレターボックスに糞を投げ込まれた。また、デモ取締りに警察はケトリングというデモ参加者を囲い込む、物議を醸した戦術を取ったが、クレッグの誕生日に学生たちは自民党の党本部までデモ行進し、クレッグの誕生日のプレゼントとしてやかん(ケトル)を届けた。クレッグのために学生たちはケトリングで苦しまねばならないというプロテストの意思表示だった。

その上、保守党との連立政権に参加する代償として、自民党は、AVという自民党に有利になると思われた投票制度を導入する案の国民投票を実施する約束を取り付けた。しかし、2011年5月の国民投票では、この制度改革は大差で否決された。

さらに、下院の選挙区の数を650から50減らし600とし、その選挙区のサイズを均等にする選挙法改正法が成立し、現在その作業が進められており、そのイングランド地区の新区画案が先日発表された。この変更は、AVの国民投票を実施する代わりに、それがもし導入された場合不利となると思われた保守党が要求して行われることになったものである。この案を分析した専門家は、自民党が最も大きな打撃を受ける可能性があると分析している。

この状態を受けて、自民党は、連立政権の中で、自民党が保守党の独走を抑えて、国民を守る盾になっているとアピールする戦略を取ってきた。しかし、この戦略の効果があまり出ていない。9月19日のダイムズ/Populusの世論調査では、自民党のために連立政権の政策がより公平になっていると答えた人が54%いたが、9月18日のサンデータイムズ/YouGovの世論調査では、そもそも自民党が連立政権に加わったのは正しかったと答えた人は35%しかおらず、それが誤りだったと答えた人が48%にも上った。また同じ世論調査で、クレッグが副首相として仕事をよくやっているかどうかという問いに対し、よくやっていると答えた人は24%にとどまり、よくやっていないと答えた人は66%に上った。これらの結果が現在の低迷する支持率に反映している。

つまり、自民党は、保守党との連立に踏み切ったために、大きなダメージを受け、その党首クレッグは、それよりもさらに大きなダメージを受けていると言える。その結果、党勢を回復するには1世代かかるという見解もあるぐらいだ。

連立政権を組んだために自民党の支持が低迷しているのなら、一つの選択として、連立を解消するという方法がある。しかし、現在、総選挙になっても、支持率の大きく下降した自民党は総選挙時の57議席から、もしかすると10議席台に落ち込む可能性があるという見解もあり、とてもとれる選択肢ではない。また、現在の厳しい経済情勢の中で、政権を倒すことはできないだろう。自民党が国民を見捨てたとしてさらに大きなダメージを受ける可能性があるからだ。つまり、連立政権の中でとどまるしか手がないのである。自民党は苦しんでいる。

2011-9-18

政治的リーダーシップ:クレッグ自民党党首・副首相(Political leadership: Lib Dem’ Clegg)

連立政権を下院第一党の保守党と組む自由民主党の党大会が17日始まった。自民党の党首ニック・クレッグは連立政権の副首相として政府の政策決定に一定の影響を及ぼしており、保守党議員からその影響が強すぎると批判されているくらいだ。しかし、有権者にはそれがあまり理解されていない。クレッグのこれまでのリーダーシップを見てみよう。

2010年5月の総選挙前の主要三党首テレビ討論でクレッグは大きな人気を博し、「クレッグマニア」という言葉が生まれるくらいのブームが起こったが、予想に反して自民党は62議席から57議席へと5議席減らした。保守党が最も多くの議席を獲得したが、過半数を獲得できず、少数政権の樹立やむなしという状況となった。自民党は労働党の左だと一般に考えられており、保守党との連立は考えられないという見方が強かったからだ。一方では、労働党と自民党が連携しても過半数に足らず、そのほかの小さな政党らの協力が必要で、もしこれらの2,3位連合プラス小政党の政権ができたとしても不安定だと考えられた。

その中、保守党は、少数政権では短期政権になるのは確実であり、しかもその結果、保守党の政権運営能力に大きな疑問符がつくという判断から、自民党との連携を模索した。特に、「あの不人気のブラウン」を党首に抱える労働党を抑えて過半数を獲得できなかったのは、党首キャメロンの責任だという声が保守党内から出てきており、キャメロンの中長期的な党首としての地位も危ぶまれる状況で、キャメロンは自民党との連携を最優先としたのである。一方、クレッグは、ブラウンと手を結ぶことは総選挙中から否定的で、しかもブラウン抜きでも労働党との連携には消極的であった。クレッグは、経済的リベラルであり、自由貿易と小さな政府を信じる人物で、ブラウンや労働党よりもキャメロンとの間に考え方に類似点が多かった。クレッグとキャメロンは2人とも同じ年齢で、しかも裕福な家庭で育ち、日本とは比べ物にならないぐらい授業料の高い私立学校を経て、キャメロンはオックスフォード大学、クレッグはケンブリッジ大学を出たという条件もあった。

総選挙直後、クレッグがキャメロンと会った後、キャメロンとなら一緒に政府で働けると判断し、保守党との連立政権の樹立に踏み切った。キャメロンは、かつて財相、内相のスペシャルアドバイザーとして政府内で働いた経験があったが、基本的には大臣・首相として新人であり、是非クレッグを口説き落としたいと低姿勢だった。これは、大臣・首相として経験豊富だと自負するブラウンらの見下すような対応とは好対照であった。クレッグには自分の能力を政府で試してみたいということもあったと思われる。英国官僚トップの内閣書記官(日本の官僚のトップである内閣官房副長官よりもかなり強力なポジション)から「不安定な政権では英国の株式市場が崩れる」との警告を連立政権に参画するための理由に使った。

クレッグは党首として議席を減らしたが、総選挙中の人気の余韻が残っていた。連立合意の報に当初ショックを受けた自民党員も多かったが、党内の了承を得た。しかし、連立政権に参画後、自民党の支持率は急落したのである。総選挙で自民党は23%の得票率を得たが、今や自民党の支持率は10%前後である。過去20年で最悪の支持率を記録しており、今年5月の地方選挙でも大きく議席を減らした。

クレッグは、EUの欧州委員会で、サッチャー保守党政権で財相を務めたレオン・ブリトン委員の下で働いていた。ブリトンから認められ、保守党から下院議員に立候補するよう勧められたが、かつての保守党首相サッチャーを嫌っていたクレッグはそれを断った。そこでブリトンが自民党の元党首パディ・アッシュダウンに紹介し、アッシュダウンに政治家として育てられたのである。そして欧州議会議員1期を経て、下院議員に2005年に当選し、2007年に自民党党首として選ばれる。議員歴は短いが、アッシュダウンの後押しを受けていたことは、クレッグには大きい。2010年総選挙後、保守党との連立政権樹立で、クレッグがアッシュダウンと逐次連絡し、指導を受けていたことは間違いない。この期間、アッシュダウンがBBCから総選挙後の自民党の動きについて質問され、あまり知らないというような発言をしたが、これは煙幕だったと思われる。アッシュダウンの介入なしに、二人の直前党首、チャールズ・ケネディとメンジー・キャンベルをバイパスして連立政権の話を進めることは困難だっただろう。この連立政権参加のクレッグの決断は、1997年のブレア労働党があまりにも大勝したため、アッシュダウン率いる自民党の労働党との連立構想がご和算になったことにも関係しているだろう。ただし、この決断は、クレッグのものだ。アッシュダウンの下で、広報担当を務めた女性が「新しい人のすることはわからない」と発言したが、クレッグ以外が党首では、これまでの党同士の関係から、連立が成立するようなことは極めて難しかっただろうと思われる。問題は、自民党経験の比較的少ないクレッグのこの決断で、自民党の支持率が大幅に下がってしまったことだ。結局、クレッグは、政治家として英国の有権者を十分に理解していなかったということだ。


2011-9-11

日本も英国下院選挙区割りの見直しを見倣うべきだ(Japan should follow British Boundary Changes)

英国の下院選挙の選挙区割りが見直され、その具体的な選挙区別の案のイングランド分が9月13日に発表される。その後、地区別の聴聞会などを経て決定されるが、既に圏域ごとの議席数配分や線引き基準は発表されており、区割り案の変更は微修正にとどまる見通しだ。これまでの過程で、政治的な思惑があったのは事実だが、今やかなりフェアな制度になろうとしている。この見直しは、一票の格差の問題を抱える日本にとっての参考となると思われる。

今回の選挙区割りの最も重要な点は、ごく少数の特別な事情のある選挙区(すべて1選挙区から一人の議員を選ぶ小選挙区で、650選挙区を600選挙区に減らされるが、その内の5選挙区)を除いてすべての選挙区内の有権者の数を全国平均の5%以内に抑えることとした点だ。これは、日本でも見倣うべきだ。

キャメロン首相は、もともと誤差を1%以内にするように希望していたが、区割委員会は技術上の問題から10%以内とするよう求め、妥協で5%に落ち着いたという話を聞いたことがある。キャメロン首相は、できるだけ誤差を少なくしようとした。これは、実は、公平さを装いながら、実は保守党の利を狙ったものであった。保守党はもともと選挙区の有権者数を均等化すれば、労働党に有利な現状を変え、自党に有利になると考えていた。昨年5月、自由民主党との連立政権を組むに当たり、自由民主党に「代替投票制(AV)」の国民投票の実施を譲る代わりに、選挙区均等化を求め、両党で合意したのである。つまり、その時点では、もし代替投票制が実施されることになると、自由民主党に有利、保守党には不利となり、それを埋め合わせるために選挙区均等化を行うということであった。そのため、この法案の国会の審議中には労働党から「ゲリマンダリング(自党に有利な選挙区線引き)」だ、という批判の声があった。今年5月の国民投票の結果、代替投票制は否決されたが、選挙区均等化はそのまま続行することになったのである。

面白いのは、保守党は自党にかなり有利になると思い込んでおり、自由民主党にはあまり影響がないと信じられ、マスコミもそれを基にした憶測報道をしてきたことだ。しかし、保守党にかならずしも有利とは言えず、自由民主党には大打撃となるという専門家の見方もある。結局、次回の選挙後に、どの政党が利益を受けたかはっきりすることになるが、全般的にはかなりフェアな制度と言えよう。この制度を設ける動機はともかく、英国のより透明な選挙制度のためには大きな前進と言える。

Politics
2011-8-22

これまでの英国2院制の強み The Strength of the Flexible British Parliamentary system

英国の議会制度は大きく変貌してきた。上下両院の議会制度は過去8世紀にわたる歴史を誇る。ウェストミンスター制度と呼ばれ、民主主義の代表的な例として多くの国がその制度を見倣ってきた。アメリカや日本もその例外ではない。しかし、18世紀や19世紀に英国式の二院制を取り入れた国々が、今やこの古い制度の罠に陥り、円滑な国政運営の大きな妨げになっているのに対し、英国には同じような問題がない。アメリカや日本では、ほぼ同じ権能を持つ上下両院の政党の勢力分野にずれがある「ねじれ」現象は深刻な問題だ。

英国では、よきにつけあしにつけ、融通の利く制度を持つがゆえにその制度が長続きしてきた。英国では、当初、上院(貴族院)だけで、後に下院が加わった。下院は、一般有権者による投票で選ばれ、上院は、任命制という形が長く確立している。これが英国の議会制の強みで、下院と上院の見解が大きく異なった場合、結局は任命制の上院側が妥協する。例えば、1840年の選挙法改正や20世紀当初のロイド=ジョージと上院の予算案をめぐる争いでは、下院の多数と政権を握る首相側が、上院の意思を変えるに足るだけの数の上院議員を新しく任命すると脅したために、上院側が折れた。つまり、上院側が任命制であることが、選挙で選ばれる下院の優越を保証し、それが議会法で確立されたのである。また、改正が通常困難な成文憲法ではなく、明文の憲法のない、いわゆる不文法の制度を取っている英国では、時間の経過や、状況の変化によって、柔軟に対処できる仕組みが備わっている。つまり、上院の任命制と不文法が英国の議会制度の柔軟さの主な原因である。

上院は時代遅れ Out of date Upper House

英国の議会制は、よきにつけあしにつけ、融通の利く制度であるため長続きしてきた。しかし、英国の連立政権は現在「より民主主義的な議会」のために、上院議員の選出に一般有権者による選挙を導入し、その特徴である融通性を大幅に減らし、新しい形の二院制をつくろうとしている。これは政党が「進歩的」なイメージを有権者に与えるための「見せかけの姿勢」だ。2010年の総選挙では、主要3党のすべてがこれをマニフェストに入れたが、本来、英国が取り組まねばならないのは、意義の薄れた2院制を廃止し、現在の下院だけの1院制とすることだ。

上院議員には任期がないが、このため、短期的な政党の利害に関わりなく、長期的な視野で国政に関与することができ、また、様々な分野の専門家が多く、法案などの吟味を実施する意義があると言われてきた。しかし、実際上、上院議員への任命には、爵位の授与が伴い、社会的な階級意識の存続にかなり大きな役割を果たしてきている。政党にとっては、上院は、古参の下院議員を送り、下院議員の世代交代を促す効果がある。また、閣僚などの大臣職に就くには上院か下院の議員であることが必要であることから、一般人を上院議員に任命して大臣職に任命できるので便利だ。さらに大口の政治献金者などを上院議員への任命で報いることも通常行われており、その上、ブラウン前首相も首相辞任時に行ったように、自分の秘書を上院議員に任命して長年の忠誠に報いるようなこともある。すべてが高尚な理由だけではない。

ところが、上院議員の選出に一般有権者による投票制を導入するということとなると、現在の上院と下院の権力バランスが変わる。上院議員の8割を選挙で選ぶという案が有力だが、これは、現在の制度で政党に好都合な面を残す意味がある。上院議員には、現在、給料はないが、そのほとんどが選挙で選ばれると、給料を出す必要がある。しかも上院の政治的な正当性が高まり、その発言力が増すこととなる。

一方、法案の吟味が上院で行われなければならないという理由はない。むしろ、社会的な階級意識を減らし、より開かれた議会を築き、屋上屋をかけるように上下両院の権能のバランスを再調整しようと努力するよりも1院制とした方が、コストの点でも、有権者の政治制度の理解の上でもはるかに効率的だと言える。2011年初め、下院の決定が法律になるのを遅らせるために、上院の長い歴史の中でも初めてアメリカ式の審議長引かせ戦術、フィルバスターが行われたが、このようなことは時代遅れだ。議会が2院である必要はない。主要政党にはいずれも多くの上院議員がおり、それらの議員からの圧力はかなり大きいものであろうが、上院の歴史的な役割は終わったという認識が英国に強く求められている。

Politics
2011-08-20

キャメロン首相の限界 Cameron’s way is a spin, spin and spin

ロンドンから始まり、英国各地に瞬く間に広まった暴動は、警察が強硬な対処法を取り始めた途端、急速に止まった。マスコミがこぞってCCTVなどの映像を発表し、容疑者の顔写真を公表し、容疑者が次から次に警察に逮捕されるのを見て、一般の人々は胸をなでおろし、暴動を始める準備のあった者は考えを変えたようだ。暴動を起こしても、自分が痛い目に遭うとは思ってもいなかった者たちが、今回は違うと気が付いたようだった。

イタリアのトスカニーで休暇中だったキャメロン首相は、休暇を途中で切り上げ、ロンドンに帰り、コブラと呼ばれる緊急事態対応会議を開いた。その日からロンドン警視庁などが警官の大動員をかけ、警官の休養日と休暇をキャンセルし、それまでの6千人から1万6千人に増員した。警官がロンドンの商店街など暴動の標的になりそうな場所にはあふれ、多くの商店やパブ、バーなどが店を早く締めた。店の中には、木製のボードで外回りを完全に覆い、自己防衛するものもかなり出た。その結果、ロンドンでは直ちに暴動騒ぎは収まり、それ以外の地域でもその翌日には収まった。

この結果を見て、キャメロン首相は、自分が「勝利」をもたらしたかのような発言をした。キャメロン首相にとっての誤算は、警察側が直ちにそれに反駁したことだ。事態を鎮静化させた手段は、すべて警察が判断して実施したものであり、首相は、直接指示したり、警官の休養日や休暇をキャンセルしたりする権限はない、と言ったのだ。国民の多くは、首相にどういう権限があり、首相と警察との関係を知らなかった。結局、警察側の剣幕に驚いたキャメロン首相は、翌日には、警察官の勇気を称えるなど大幅にトーンダウンした。

キャメロン首相は、もともと広報マンで、見栄えの良い、聞こえのよい話を好む傾向がある。自分にプラスになると思われるチャンスは見逃さない。問題は、それが行き過ぎると、かえって逆効果になることだ。本来、責任は自分が取り、手柄は警察に与えるという態度が本当のリーダーである。「広報マン」首相キャメロンの限界である。

 

「素人」菅首相の限界 Japanese Prime-minister Kan- What is wrong?

東日本大震災・津波、そして福島原発の対応で国際的に評価された菅直人首相を引きずり下ろそうとする日本のマスコミと政治家の動きは、一種のヒステリー状況のように見える。この中、日本の政治家が心しておかねばならない問題が浮き彫りになった。「素人」菅首相の犯した失敗だ。

菅首相は、6月2日、党内外からの強い圧力を受けて、時期を明確にしなかったが退陣を表明した。菅首相には、東日本大震災や福島原発危機の対応に不手際があったという人が多い。首相としての資質がない、リーダーシップがないという意見もある。確かに菅首相の人気は低いが、震災・津波後の復旧・復興、福島原発問題の対応や今後の原発政策など取り組まねばならない課題が山積している。誰が新首相に選ばれても、その職に落ち着き、仕事に慣れるにはかなりの時間がかかる。そのため、新首相が選ばれても、就任当初のハネムーンの時期はあるだろうが、新首相がすぐに菅首相より優れた仕事ができるだろうと考えるのは希望的観測のように思われる。

世界の常識・日本の非常識?

6月の初めに二つの国際機関のレポートが発表された。国際原子力機関(IAEA)は、福島原発事故の対応に対し、「日本の対応は模範的で、その長期的な対応、被害地域での退避処置など見事で、よく組織されている」と述べた。さらに、国際通貨基金(IMF)は「政府と日本銀行が、迅速で決然とした行動を取り、経済への影響を抑えるのに貢献した」と評価した。6月2日の内閣不信任案の採決前、英国の公共放送BBCの東京特派員が「菅首相は震災後、国民を鼓舞するリーダーシップを発揮したが、震災前からの政争でこの危機を迎えている」と述べたが、震災後の菅首相のリーダーシップは、国際的に評価されているといえる。しかし、日本では、菅首相の対応はお粗末で、リーダーシップがないと信じられている。この差はなぜ生じているのだろうか?

日本の完璧主義

この差の原因は、マスコミ報道が「理想的な状態」と比較して菅首相の言動を批判しているためのようだ。例えば、菅首相が福島原発事故発生後、自ら原発に視察に行ったことに関して、現場の邪魔になる、首相は本部で全体を見ておくべきだ、などという批判が出た。これを始め、菅首相の一挙手一投足が批判される形となっている。BBCが6月15日に福島原発問題で、官邸と官僚、そして東京電力の間に信頼関係がなかったと報道したが、官僚からの情報が明らかにおかしく、その情報に信頼がおけない場合、より正確な情報を得るために首相は何らかの手を打つ必要がある。政府のすべての機能が効率的に働き、判断をするのに十分な正確な情報が届き、しかも指示が滞りなく正確に伝達され、実施される状況では、菅首相のヘリ視察批判が正当化されるかもしれないが、そういう状況ではなかったように思われる。

英国では、政府機関に何らかの問題がある、もしくは、首相が「完璧な人物」ではないことは当たり前であり、誰も「完璧」を追求しようとはしない。日本では、後で事実がはっきりしてから、完璧な状態と比較して、重箱の隅をつつく議論が多いように思われる。

菅首相の資質とリーダーシップ

菅首相は、「何かを成し遂げたい」という思いがないという批判があった。就任当初「強い経済、財政、社会保障を一体として実現する」といった目標を掲げ、「税と社会保障の一体改革」を実行すると打ち上げた。政権の目的としては妥当なものと言えるだろう。また、震災後の言動を見ると、日本の復旧を自ら成し遂げたいという強い意欲が窺われる。もし首相就任前に確たるものがなかったとしても、震災を経験し、それからの復興が一つの大きな目標となったのは疑いなく、菅首相が退陣時期を明確にせず、予想外の粘り腰を見せる原因となっている。

また、リーダーシップのレベルには様々なものがあり、震災後、少なくともBBCの東京特派員には、首相として国民をけん引するリーダーシップはあるように見えたようだ。もちろん、首相として内閣をまとめ、政府・官僚を率いるリーダーシップ能力はそれとは同じものではなく、政府内からも多くの首相批判があったようだ。しかし、日本の政治の問題の一つは、菅首相には「資質がない、リーダーシップがない」と批判する人たちが、次の首相にそれらを明確に求めているようには見えないことだ。

英国のトニー・ブレアが首相就任後、官僚トップの内閣書記官に「あなたには大きな組織を運営した経験がないから」と指摘されたことがある。ブレアは、首相として自分の成し遂げたいことを確立するのに3年近い時間がかかった。この間、継続してブレアの支持率は高かったが。

経営経験が乏しく、トップに就任してどのようなリーダーシップを発揮して政権を運営していくかというはっきりとした考えに乏しいように映る日本の政治家たちが、どの程度その仕事に対応していけるか疑問だ。首相にふさわしい「資質」やリーダーシップがどのようなものかはっきりさせないまま、首相としての資質がないとかリーダーシップがないと言うのは、きちんとした議論ではないだろう。「完璧な人」はおらず、しかも時間の経過やや状況の変化によって求められる人物像は異なってくる。

菅首相の失敗

菅首相の最大の失敗は、2010年参議院選挙の前、唐突に、消費税の問題で「自民党が提案している10%を参考にしたい」と提案して国民の不信を買ったことだ。このために菅首相は国民の信頼を失い、7月の参院選で民主党は惨敗した。菅首相は、参議院で多数を失い、ねじれ国会の状況を生み、それ以降、迷走してきた。結局、この出来事が菅首相の命運を決めることとなった。もし、この消費税の失言がなければ、菅首相は、衆院と参院の多数を占めており、その評価はかなり異なったものとなっていただろう。

信頼を失った効果

国民の信頼を失うことは、政治家にとってしばしば致命傷となる。もし国民の信頼があれば、「あばたもえくぼ」的な見方をされ、少々の失敗はたいした問題にはならない。初期のブレア元英国首相がこれに当たる。国民の信頼がなくなれば、何をしても、良いことでも悪いことでも、一挙手一投足が批判の対象となる。菅首相の場合、この状態に陥っているようだ。

失敗の原因

菅首相の失敗は、いくつかの原因があるだろう。その第一は、国民を読み誤ったことだ。英国の政治家なら、絶えず公の世論調査や政党の私的な世論調査で、国民の反応を常に念頭に置いて言動に注意を払う。大きな政策の提言や、政策転換を進める場合には、世論調査の上に、フォーカスグループという手法を用いて、国民の生の声を確認し、そして最終的な判断を下すことになる。フォーカスグループとは、一定の数の人を集め、そこで自由に意見を言ってもらい、その反応を分析するやり方だ。もちろん、世論調査やフォーカスグループの結果に完全に依然するというわけではなく、政治家本人の信念や政治状況からそれに反する決断をする場合もある。しかし、こういう慎重な方法は、国民の信頼をつなぎとめようとするには欠かせない。つまり、「政治家の勘」は、偶然に頼るもので、心もとないからだ。

第二に衆院で多数を占めていることへのおごりがあったように思われる。参議院選挙には勝利を収めるだろうと考え、その結果、国民を軽視していたということができるだろう。もちろん、消費税の問題は、極めてセンシティブな問題であることは承知しており、消費税を上げるためには、何らかの「選挙の洗礼」を受ける必要があるとの判断の下、消費税の話を持ち出したものと思われる。これは、英国とはかなり異なる。英国では、サッチャーでもその後のメージャーでも選挙前に「消費税を上げる」とは言わなかった。それはキャメロンでも同じだが、首相の座を確保してから消費税を上げた。こういうやり方が日本で受け入れられるかどうかは別の問題だが、少なくとも、菅首相が、消費税を上げることのできる政治状況を作るという配慮を怠ったのは事実だろう。

結局、政治を進めるうえで、トップ政治家が最も留意しなければならないのは、国民の信頼が維持される状況づくりをすることだ。それがなければ、菅首相のように一挙手一投足が批判されることになりかねない。

プロの政治

日本の政治に大きく欠けているのは、プロの政治だ。これは「素人の政治」、つまり思いつきの政治の対極を成す。問題の一つは、ほとんどの政治家が素人的だということだ。これは、選挙で選ばれることを考えればある程度やむをえないことだが、大臣に就任する人のほとんどが、実は「素人」だ。英国でも同様の問題がある。しかし、英国では、それを補うために、トップ政治家をプロの集団が取り囲み、つまり、なるべく「素人」の弊害が出てこないようにしている。プロの集団とは、単に特定の分野の専門家であるとか、政策に詳しいというだけではない。むしろ、総合的に大局を見て、世論の動きや状況の変化を把握し、問題を把握し、個別のアドバイスができることを指す。

なお、日本の政治家の中で「剛腕」と言われる小沢一郎氏は、プロの政治家だという人がいるかもしれない。しかし、「菅降ろし」の動きの中で見せた小沢氏の動きは、かつての田中角栄氏の「闇将軍」的なものを思い出させ、現代の政治には既にそぐわなくなっているという印象を受ける。また、小沢的な「プロ」は、政略に長けているかもしれないが、上に述べたプロとは意味が異なる。さらに、プロの政治家を人間関係や調整のプロととらえる人もいるかもしれないが、本当のプロとは、リーダーシップや国民との関係を重んじるものである。

「素人」菅首相の限界

菅首相の限界は、この「素人」の壁を越せなかったことだ。この素人の壁を超える人が現れてこそ、日本の政治が進展するチャンスが生まれてくるように思われる。

これからが難しいオズボーン財相 Chancellor Osborne’s difficult time ahead

 

キャメロン連立政権成立以降1年余りたつが、財務大臣を務めるジョージ・オズボーンは、これまでのところあまりマスコミなどから批判を受けずに来た。しかし、これからはそうはいかないだろう。特に肝心の経済が思ったように成長していないからだ。

オズボーンがこれまであまり批判を受けてこなかったのには幾つか理由がある。まず、これまで財政カットなど、公に発言した政策を変えなかったことだ。そのため、批判される直接の材料を与えなかった。これは、実は、苦肉の策と言える。

2010年5月の総選挙前に、保守党、労働党、そして自民党の3党の財政担当者のテレビ討論が行われた。そこでは、労働党の現職財相であり、10年間財相を務めたゴードン・ブラウン首相の下で既に3年近くその地位にあったアリスター・ダーリングと、自民党のベテラン、ヴィンス・ケーブルの間に挟まれ、経験不足を露呈した。ケーブルは、経済学の博士号を持ち、大手石油会社シェルのチーフ・エコノミストを務め、政府関係機関での仕事にもあたったことのある経済の専門家だ。一方、オズボーンは、大学で近代歴史を学んだ後、保守党本部に入り、政治を担当した人物だ。2005年から影の財相を務めてきたが、テレビ討論でのパフォーマンスは、それまでの5年間いったい何をしてきたのだろうかという疑問を抱かせるものであった。実際、保守党のマニフェスト発表時に環境税の問題で質問が出たが、それに答えられなかった。キャメロンが党首選挙に出馬した時、その選挙マネージャーを務めたこともあり、キャメロン党首との信頼関係はあるが、選挙期間中、汚い役割も買って出、キャメロン政権での財相の職を確保するよう努力しているのではないかと思われた。選挙の後、財相に就任し、巨額の財政赤字と債務を抱えた英国の財政カットに取り組んできた。しかし、財相として、機動的な対応をするのではなく、既定の路線に固執してきた。これは、今まで正当化されてきた。

既定の路線を守ることは、経験の不足している人にとっては取りやすい道だ。英国のためにUターンしないと言い、問題が出てきても、前の労働党政権の無責任な財政運営で生まれた財政問題を解決するにはやむを得ないと強弁する態勢を取ってきた。実際のところ、機動的に取り組み始めると、他の政策にも様々な齟齬が出てきて、全体の調整を取るのはかなり難しい。かなりの経験と能力が必要となる。現在のように、イングランド銀行の金融政策委員会で、さらなる量的金融緩和政策を取る必要性が話し合われるような状況の中、英国の短中期的な経済見通しは明るくなく、政府が何らかの政策変更を迫られる可能性がある。そうなれば、オズボーンの「張り子の虎」が一挙に表面化してくる可能性があろう。要は、この1年余りでどの程度「成長」してきているかだ。

次に、財政カットの進め方だ。連立政権の最初から、財政カットの立案、実施は各省庁に任せ、担当大臣が進める形を推し進めてきた。実は、財政カットの立案の過程で、財務省のスタッフが非常に密接に関わっており、オズボーンがかなり深く関与しているのだが、オズボーンは表にはほとんど出ず、各大臣の責任で行われている。そのため、例えば、国有林の売却問題で環境相が方針をUターンした時でも、それは担当大臣の責任で、オズボーンは直接関係がないように見える。キャメロンの後の保守党党首の座を狙うオズボーンにとって、財相の地位を維持することは必要最小限のことで、深い傷を負いやすい財政カットで表に出ないことは将来の戦力とも関わっている。

さらに、財務副大臣で自民党のダニー・アレクサンダーの役割だ。財務副大臣のポストは、閣僚級で、閣議にも出席する。このポストは予算の配分交渉や、国家公務員の給与、福祉制度改革などを担当しているが、アレクサンダーが、国家公務員の年金受給年齢を上げることを発表し、労働組合から猛反発を食らった。つまり、オズボーンは、財務省全般を管理監督する責任があるが、このような問題では、アレクサンダーが矢面に立つわけだ。後で、アレクサンダーが方針を若干修正するためにオズボーンと交渉していると報じられたが、実際のところオズボーンが後ろで糸を引いている。

つまり、オズボーンは今までうまく立ち回って、傷を負うことを避けてきた。財政カットが順調に進み、経済も向上すれば、それはオズボーンの功績となる。しかし、6月30日には一部公務員組合らのストライキが実施される予定であり、今秋にかけて労働組合の大規模なストライキが予想され、しかも今後の景気動向次第で、オズボーンが何らかの政策の変更を迫られた時、本当のオズボーンの姿が露呈されるだろう。オズボーンにとっては難しい時が目前に迫ってきていると言える。

クレッグ副首相の失敗Clegg’s Blunder on the Nationalised Bank

ニック・クレッグ副首相は、連立政権を構成する自民党の党首だが、自民党の低い支持率を回復するために政権内での存在意義を示そうと躍起だ。しかし、その意欲は時に裏目に出る。

NHS(国民健康サービス)の改革法案への見直しで、世論の声を反映して自民党が見直しに積極的に貢献したような印象を与え、一定の成功を収めたかのように見えた。しかし、クレッグが突如打ち出した案、金融危機で政府が部分的に国有化した二つの銀行The Royal Bank of Scotland(82%国有)とLloyds (41%国有)の政府所有株式を国民(4600万の有権者)に無償で与える案は、不発であったところか逆にクレッグを攻撃する材料を与えることとなった。

クレッグは、キャメロン首相もこの案には非常に乗り気だと説明し、私も最初、クレッグが国民に評価されると思った。国民は銀行、そして銀行家たちへの報酬に強い批判を持っているからだ。しかし、この案の分析が進むにつれて、この案には多くの問題点があることが明らかになった。例えば、政府が株式を取得するに要した費用を回収する必要があり、現在の株式の価格では、そのレベルに到達しておらず、将来、株価が上がり、株式を販売してもその費用を除いた残りが国民の手に残るだけであること。また、専門家によると、国民に株式を与えるにしても、その作業や管理がかなり複雑で、その費用に2億5千万ポンド(330億円)もかかるとみられること。さらには、これらの銀行の株式を政府が保有して、将来販売して出た利益を減税や国の債務削減などに使った方がはるかに効率的だと考えられることなどだ。つまり、クレッグ副首相は、これらを十分検討しないまま、この案を打ち出してしまったのである。首相官邸は、一案に過ぎないと説明し、クレッグのメンツを立てながらもこの案が実現する可能性はないと示唆した。

6月24日の、英国で販売部数の最も多い大衆紙のサンは、その風刺画で、クレッグが株式証券を街頭で振り捲いているのを見た人が、気のふれた人がいると警察に電話しているものを載せ、社説で、クレッグに「黙れ」と言った。結局、クレッグの信用をさらに失う結果となった。日本の菅首相と同様、いったん信用を失うと、それを回復するのはかなり難しく、しかもよかれと思っての言動がマイナスになることが多いことを示した形だ。

英国は上院改革ができるか?House of Lords Reform: Never-ending Story?

英国の国会は二院制で、下院と上院がある。下院は一般の選挙で選ばれるが、上院はそうではなく、貴族院であり、一部の世襲貴族と大多数を占める一代貴族で構成される。この上院をより民主的な選挙で選ぶ仕組みを作ることが過去100年間検討されてきた。2010年の総選挙でも主要三党の保守党、労働党、自民党がこの問題を取りあげ、議員全員もしくはその大多数を選挙で選出することをマニフェストで掲げた。これを受けて、保守党と自民党は、連立合意でこの課題に取り組むこととし、それを担当する自民党党首で副首相のニック・クレッグが5月に下院でその原案を発表した。しかし、上院は現状維持を望んでいる上、下院でも改革案に賛成する議員が少ないことから、これが実現する可能性は当面ないだろうと見られる。

クレッグの政府案の骨子は、以下の通りだ。
1. 定数を基本的に300とし、その内、80%にあたる240を選挙で選出し、60は任命制。それに12名の英国国教会主教が加わる。
2. それぞれの議員は15年間の任期で、一期限りとする。
3. 5年ごとに80名ずつ選挙で選ばれる。
4. 選挙は、単記委譲式投票(STV)と呼ばれる比例代表制で行う。
5. 最初の選挙は、2015年に行う。

日本の国会も二院制だが、両院とも議員が選挙で選ばれ、両院の権限が一部を除き同等であるが、英国の場合、選挙で選ばれる下院が政治の中心であり、上院は補完的な役割を果たすにとどまる。上院は法案の審議を一年間引き延ばすことができるが、予算の伴う法案ではそれはできず、法案の修正も基本的にはできないことになっている。また、上院は、総選挙で下院の多数を占めた政党のマニフェストに含まれた政策には反対しないことになっている。さらに上院議員には給料はなく、出席した場合の日当や経費が支給されるにとどまる。

上院議員の選出に選挙を行うようになると、このような上院の役割が少なからず変えられることとなる。例えば、下院は、選挙で選ばれるがゆえに大きな力を発揮するが、上院も同様に選挙で選ばれるようになれば、上院にさらに大きな権限を与えざるをえず、両院の力関係が変化するだろう。また、給与を支給し、オフィスを用意し、秘書を提供する必要が出てくる。つまり、多くの追加費用がかかることとなる。また、現在800名近くいる一代と世襲議員をどうするかという問題がある。これらの問題を解決しないことには、上院改革は前に進まない。そのため、危急の問題とは言えないこの課題に本格的に取り組み、上院議員を選出する選挙が2015年に行われる見通しは、極めて小さい。

 

下院選挙区区割り変更で最大の被害を受けるのは、労働党ではなく自民党 The impact of constituencies’ boundary changes

次の下院総選挙は、2015年5月の予定だ。その総選挙では、現在の定数650が600に減り、選挙区の有権者数の差が、特定の選挙区を除き、5%の上下の幅に抑えられることとなっている。当初、この変更で有利となるのは保守党で、不利になるのは労働党、そして自由民主党は不利にも有利にもならないと見られていた。そのため、この法案の審議過程で、労働党はこの変更は、選挙区の線引きを政権政党が自党に有利に変えるゲリマンダーだと言って非難した。そして上院で労働党議員によるフィルバスターが起きたほどだった。しかし、最近の研究によると、保守党には思ったほど有利にはならず、労働党にはそれほど大きく不利にはならないが、自由民主党への影響は非常に大きいことが明らかになった。

この研究は、リバプール大学の『民主的監査』(Democratic Audit)が行ったものである。結果は、
http://filestore.democraticaudit.com/file/5618fc68c4694271e17e44762ef93e19-1307458033/summary-boundary-changes---all-countries-and-regions-v2.pdf 

これによると、650から600議席へと50議席減る中で、主要政党の議席数の変更は、保守党マイナス15、労働党マイナス18、そして自由民主党マイナス14である。2010年総選挙の獲得議席数は、保守党307、労働党258、そして自民党57であり、各政党の減少割合は、保守党5.9%、労働党7%、そして自民党は、24.6%である。つまり、新しい区割りが実施されると、自民党は選挙の前から既に4分の1の議席を失っていることになるのである。(参考http://www.bbc.co.uk/news/uk-politics-13665221  なお、この記事は、6月6日付であるが、民主的監査は6月7日に結果を修正しているために、数字に若干の違いがある。)

若干の背景説明が必要だろうと思われる。まず、新選挙区区割りは、2013年秋までに確定されることになっており、それは、2010年12月の有権者名簿に基づいて行われる。また、選挙区区割り委員会(イングランド、スコットランド、ウェールズそして北アイルランドの4つの区割り委員会)は、既に多くの区割り方針を発表しており、各地方で減らす議席数を発表している。例えば、ウェールズで何議席減り、ロンドンで何議席減るといった具合だ。今後、具体的な選挙区区割り案が発表され、ヒアリングが行われ、最終的に確定するという順序を経る。民主的監査は、今回の発表は、予想ではないと言うが、そのメソロドジーなどから、結果にそう大きな差は出ないものと思われる。

なぜ、今回の区割りの変更が自民党に不利になるかだが、これは、自民党が議席を獲得している地域がいくつかの拠点に集中しており、隣接の選挙区からその議員が出ているところが多く、そのために区割りの影響を直接受けるためである。自民党にとっては、下院選挙制度変更の国民投票の否決、連立政権参加後の大幅な支持率の低下と相まって、更なる大きな打撃である。

どうすれば能力のある大臣になれるかHow to become an effective Minister

先日ある有力シンクタンク(The Institute for Government)が「大臣の課題(The Challenge of being a Minister)」と題するレポートを発表した。これでは、どういう基準で大臣や大臣の候補者を評価するかはっきりしていないために、大臣の任命は、偶然に任されることが多く、大臣に選ばれた人に必要な能力がない場合がしばしばあると言う。

しかもこれまで一つの大臣職に就いている期間は、平均で2年余りと短く、回転率が高いためにその職を効果的に遂行する専門知識や経験を積む時間が短く、内閣改造をするたびに政府の質を悪化させることになると言う。

この問題に取り組むためには、大臣の勤務評定を取り入れるべきであり、野党である「影の内閣」の閣僚も日ごろからもっと真剣に仕事に取り組むべきだと言う。また、経験の十分でない人をその役割に備えさせ、いったんポストに就いた後もその能力を継続して伸ばすことができるようなシステムが必要だと言う。

つまり、能力のある大臣とするには、まず、その基本的な能力のある人を選び、継続して勤務評価しながらその能力を伸ばし、経験を積ませ、そしてかなり長い期間その職に在任させることだというのだ。

日本で「能力のある大臣」もしくは「効果的な大臣」となるためにはどうしたらよいか、という議論があるのだろうか?

人が重要(Manufaturing is coming back to Britain)

キャメロン首相のスピーチの本音?(What Cameron “in truth” said in his speech)

国会開会式(The State Opening of Parliament)

マニフェストの約束を機械的に実施することの危険性(Dangers to carry out Manifesto pledges without thinking)

ジョンソン・ロンドン市長のキャメロン首相への脅威(Boris will be a threat to Cameron)

アイデアだけでは不十分(Coalition Government’s Mistakes Will Haunt Them)

オムニシャンブルズ (Omunishambles)

英国国会での飲酒(Drinking by MPs in the Parliament)

BskyB問題と文化相(Culture Secretary Hunt and BskyB)

大臣の行動規範(Ministerial Codes and a minister’s behavior)

「日本は今何をしなければならないのか?」その理念 (What Japan now needs to do)

自らを再び窮地に陥らせた内相(When cards are stacked against a politician.)

英国外の政治家の納税申告書公開動向について(Other Countries’ Tax Return Disclosure)

政治家の税金公開(Politician’s Tax Disclosure)

有権者は何に興味があるか?(What Interests Voters)

キャメロン首相就任以来最悪の週(The Worst Week for Cameron)

理屈ではいかない税(Effects of Budget)

財相のマジック(Osborne pulled out a Rabbit)

政府予算の政治(A Tweaked Budget and its Political Process)

陰の財相、エド・ボールズの話(Is the Shadow Chancellor Ed Balls a Tough Guy?)

ケーブル・ビジネス相の指摘した点:日本も考えるべき(Vince Cable’s Views on Industry Policy)

保守党の次期総選挙戦略(Tory’s Strategy for the Next General Election)

キャメロン首相のストラテジストの長期休暇(Steve Hilton’s Temporary Retreat)

ロンドン市長選の動向(Forthcoming London Mayoral Election)

政党の政策作りのメカニズム(How political parties make their policies)

英国の格付の政治(Politics on the UK’s Credit Rating)

「政治主導」とは何か?(What is the politicians’ initiative in Japan?)

若者の失業対策 (The UK way of dealing with Youth unemployment)

波紋を呼ぶ主任視学官の新方針(New Chief Inspector of School’s determination)

英国の所得税(British Income Tax)

ロンドン市長の効果の乏しい「選挙公約」(London Mayor’s not so effective promises)

バイリンガル小学校(Bilingual Primary Schools)

選挙で選ぶ警察コミッショナーの導入(The New Police and Crime Commissioners)

財政カットに苦しむ英国の地方自治体(Local governments, suffering from budget cuts)

「対立」を作り出す政治(Politics which create divisions)

英国の教育:ルールに従わせることの大切さ(Rules are Important in Education)

政治家の容貌の効果(Appearance: Important for Politicians?)

政府の無駄を削減する方法?(How to reduce the government waste?)

行政の大改革案(Forthcoming Civil Service’s ‘Radical Reform’)

サッカーの人種問題(Racial Issues in Football and Beyond)

困難な時にこそ政治家は夢を語れ(Politician’s messages in times of trouble)

英国自民党の連立政権からの離脱(Lib Dem’s Only Choice)

EU拒否権を行使して孤立した英国(Cameron’s gamble)

民主党政権の「政治主導」?(Japanese Democrats’ Misunderstandings 1)

選挙区区割り委員会の公聴会(Boundary Commission’s public hearing)

政治家が信用を失う時(When a politician loses his/her authority: Theresa May)

小政党が連立政権に入るリスク(What will happen if a small party joins a coalition?)

新婦の実家で行われた結婚式に招かれて

日本が英国自民党の失敗から何を学ぶことができるか?(What Can Japan learn from Clegg’s Mistakes?

自民党の行方(Then, What Can Lib Dems Do?)

苦しむ自由民主党(Lib Dems’ Agony)

政治的リーダーシップ:クレッグ自民党党首・副首相(Political leadership: Lib Dem’ Clegg)

日本も英国下院選挙区割りの見直しを見倣うべきだ(Japan should follow British Boundary Changes)

これまでの英国2院制の強み The Strength of the Flexible British Parliamentary system

上院は時代遅れ Out of date Upper House