英国政治には以下の三つの面がある。
o 伝統的である=不文憲法をはじめ、古い習慣をなかなか変えられない面がある。
o 民主的である=腐敗が少ない。選挙区の選挙費用が少ない。
o ダイナミックである=政治家とマスコミの間に緊張した関係がある。リーダーの決断がすぐに行政に反映される。
しかし、いずれの面も問題を抱えている。ここではそれらのよい点、それに問題点も浮き彫りにしていきたい。
British Politics
Sub-section
2008-12-15
行政と野党との政権交代事前協議(Douglas-Home
rules)
英国では、政権交代は、総選挙の直後に行われる。これは、日本のように、総選挙後の特別国会で首相指名を行う必要がないためだ。英国では、総選挙で多数を占めた政党の党首が、女王から首相の任命を受け、直ちに仕事を開始するため、新政権に時間的な余裕がない。そのため、次の政権を担う可能性のある野党と行政が総選挙前に事前協議をすることが慣例となった。これは、1964年ダグラス=ヒューム・ルールとよく呼ばれる。これは、下院の野党第一党だけではなく、野党第二党の自由民主党にも該当する。
例えば、1997年の総選挙で政権についたトニー・ブレア率いる労働党は、総選挙の15ヶ月前から、行政のトップ官僚らとの協議を始めた。その前の1992年の総選挙の際には、ニール・キノック率いる労働党は、18ヶ月前から協議を始めている。いずれも、当時の政権政党の保守党を率いるジョン・メージャー首相の許可を得てのことだ。野党時代のブレアとの協議では、行政は、ブレア政権の準備として、教育政策、福祉政策、それに地方分権の準備を進めていたと言われる。
2007-11-21
ジャーナリストと官僚、政治家との関係
英国では、ジャーナリストが官僚や政治家を食事に誘い、さまざまな情報を仕入れることが頻繁に行われている。英国駐在の各国外交官もそうで、日本の外交官も例外ではない。
こういう食事の場では、通常かなりアルコールが入る。前首相トニー・ブレアが首相になる前、あるジャーナリストに昼食に招待された際にブレアがワインではなく、ミネラルウォーターを注文したのでそのジャーナリストが驚いた、という逸話があるが、昼食でも招待された人がワイン1本以上飲むようなことは頻繁にあるようだ。このような食事の場では、アルコールの勢いもあり、口が軽くなる。
さて、ある事務次官がファイナンシャルタイムズ紙の記者にイタリア料理店で食事とワインをご馳走になり、その際にオフレコで話したことが記事になった。その事務次官は、今年6月に首相になったゴードン・ブラウン首相には、自分や少数の側近で物事を勝手に決める傾向があり、そのほかの閣僚や官僚はそのために物事が進められないと述べた。また、官僚のトップである内閣書記官のガス・オードンネルもブラウンに近すぎると批判した。
この事務次官が誰であるかが英国では話題になっている。いずれにしても今後、官僚はジャーナリストとの接触には慎重になるだろう。
2007-11-20
ブラウン首相がトップ政治家の年金見直し
ゴードン・ブラウンはより公平な社会を築くことを一つの目標に掲げているが、その一つに首相を含めたトップ政治家の年金(職を離れた後の給付金)の見直しを指示した。英国では、トップの3人の政治家、首相、下院議長それに大法官(かつては上院議長の職も務めた)の3人は、一日でもその地位に就けば、その職を離れた後、それぞれの年間給与の半額を受け取ることになっている。つまり、それぞれの年間給与は、首相18万8849ポンド(約4300万円)、下院議長13万7579ポンド(約3100万円)などであるが、それらの額の半額が職を離れた時から支払われることになる。
これは、英国の主要な役職を経験した人がそれなりの威厳を保っていけるよう配慮したものである。しかしながら、ブラウン首相は、この制度は時代錯誤であるとして変更する考えである。ブラウン首相のアプローチは、非常にオーソドックスなものだが、自分の原則に従って行動している点は賞賛に値する。
2007-11-19
ブラウン首相の人気急降下
英国には「政治の世界の一週間は長い」という言葉がある。これは、政治の世界では何が起きるかわからないということである。11月18日のサンデータイムズ/YouGovの1983人の世論調査(11月14日から16日)によると、今年6月に就任したゴードン・ブラウン首相への支持率が最低となった。わずか1ヵ月前には、ブラウン首相がよくやっていると支持した人は59%で支持しない人の29%を差し引くとプラス30であったが、今やよくやっていると言う人は33%と大幅に減った。よくやっていないという人が43%となり、その差はマイナス10となった。同時に、野党第一党の保守党の支持率は41%、ブラウン首相率いる労働党は35%である。この大幅な支持率の低下は、総選挙の準備をそれまでフルスピードで進めておきながら10月最初に急遽取りやめたことに原因がある。議席を減らす可能性が高いと判断したためだ。
そのためにブラウン首相は「臆病者」とののしられることになった。ブラウンが首相就任以来、テロ事件の処理や洪水問題の対処などが高く評価され、ブラウン首相の人気は高かったが、問題は、選挙取りやめを契機にブラウン政権のさまざまな問題が、ブラウンに不利な方向へ細かく分析されるようになったことだ。これにはクレジット・クランチをはじめとした経済運営上の問題、さらに「英国人の最大の関心事である」住宅価格の下落が予想される中、ブラウン政権の経済運営に不安感が高まっていることが背景にある。
実際、多くの政治上の問題は、コインの両面の面がある。例えば、コップに水が半分入っているとする。それが「半分しか入っていない」か、「半分も入っている」かは見る人の主観によって異なる。例えば、ブラウンが「決断できない」か「物事に慎重」かは、それぞれのコメンテイターの主観によって異なる。しかし、もし、「ブラウンは決断できない」という人の数が圧倒的に多くなれば、世論はそれで大きく左右される。
すべての政治上の問題に完璧な答えを出すことは不可能だ。例えば、ブラウンへの批判への一つは側近政治の問題である。側近のエド・ボールズ、エド・ミリバンド、それにダグラス・アレキサンダーらを重用している。いずれも頭のよい、若手の閣僚であるが、経験不足の面は否定できない。特にエド・ボールズは、ブラウンが財務相時代に財務省のチーフ経済アドバイザーという立場ながら「副財務相」とも言われたほどの影響力を発揮した人物であった。2005年の総選挙で下院議員になったばかりだ。ただし、多かれ少なかれ側近のいない首相は考えにくい。
問題は三つある。非常に頭のいいといわれるブラウン首相にきちんとしたマネージメントができるかどうか、優れた政治的な勘があるかどうか、それにはっきりした政治の方向性を持っているかどうかだ。
まず、マネージメントの問題だが、頭のいいことと、きちんとしたマネージメントができることは必ずしも同じではない。ブラウンは、きちんとした方向性を出し、その中でそれぞれの担当者に責任を分担させなければならない。それがブラウンにできているかどうか。これについては、ブラウンはあまりにも細かい点にまで口出ししすぎるという批判がある。「福祉国家」を建設したクレメント・アトリーのやり方を見習う必要があろう。
次に政治的な勘があるかどうか。頭がいいことと、優れた政治的な勘があることは同じではない。ブラウン首相が朝から晩まで一生懸命働いていることはわかる。早朝から閣僚らの電話が鳴り始めると言われるが、一生懸命働くことと勘の問題は異なる。この点についてはこれから試されるだろう。
さらにはっきりした政治の方向性を持っているかどうか。はっきりした方向性はあるが、多くのコメンテイターはそれを認識しようとしていない。ブラウンにとって多くの方向性は前首相ブレアと重なる。ところが多くのコメンテイターは、ブラウンとブレアの違いを見ようとする。そこに認識の違いがある。ただし、もし、ブラウンがブレアを業績で凌ぐ首相となりたいと考えているなら話は別だ。今までのところブラウンがブレアを凌ぐ可能性は少ない。もし、ブラウンがそういう野心を持っているなら、むしろそれは多くの困難な問題を引き起こすだろう。ブラウンは現状に沿った着実な政治運営を目指すべきで、それで約2年後の総選挙で自らの政権の評価を問うべきだろう。
2007-11-07
政治家の失敗とその影響
英国でも日本でも政治家は時として判断ミスをする。もちろんそれがどの程度それ以降の政治活動に影響するかは、その失敗の程度とその時の状況による。しかし、大きな判断ミスをすると、信用を落とし、政治の求心力を欠くことになりかねない。
日本では、7月の参議院選挙で大勝利を収めた民主党の小沢一郎党首が自民党との連立政権に福田首相と合意したが、それが民主党の役員会で賛成を得られなかったためにその話はなくなった。小沢氏は一度党首を辞任する意向を表明したが、民主党が慰留に努め、その結果、小沢氏は翻意した。しかし、このごたごたは民主党と小沢氏に大きな打撃を与えた。なぜ、小沢氏がこのような判断ミスを犯したかは、しばらくの間は謎であろう。小沢氏は連立政権に応じた理由を政策的なものだとしたが、それは表面的なものである。小沢氏を副総理とするとした合意の噂があるが、それで小沢氏が動いたとは考えにくい。むしろ、福田首相との合意の中で、小沢氏がそれより上の地位を中長期的に約束されたと考えるほうが自然だろう。それで小沢氏に迷いが生じたのではないかと思われる。
一方、英国では、ゴードン・ブラウン首相が、総選挙を行うかどうかで今年10月のはじめに大きな判断ミスをした。労働党党大会でブラウン首相と労働党の支持率は大きく高まり、現在の約60のマジョリティ(与党の下院での議席数が他の議席合計をいくつ上回っているかの数字)が100以上まで上がるのではないかと見られたことから一挙に選挙熱が高まった。もともとブラウンは年内の総選挙は考えていなかった。しかし、この支持率の向上ぶりに、ブラウンとその取り巻きの幹部が浮き足立ってしまい、一挙に選挙めがけて準備が始まることとなってしまった。ブラウン首相に迷いが生じたのである。前回の総選挙は2005年で、5年の任期があり、次の総選挙は2010年の春まで待てるのにである。一応ブラウンは労働党党大会の後予定されていた保守党の党大会が終わってから決断するとしていたが、その保守党大会で状況は大きく変化した。労働党の総選挙の準備は、保守党に圧力をかけ、保守党を窮地に追い詰める狙いもあったが、それが反対の結果を生んだ。保守党は、逆に結束し、しかも、追い詰められて出した税金改革策、それは相続税のかかり始める金額を30万ポンド(約7千万円)から70万ポンド(1億6500万円)に大幅に上げることであったが、その政策が、予想外に有権者に大きな支持を受けた。これは、首相になる前、財相を10年間務めたブラウン首相への批判もあると思われる。このため、世論の支持が一挙に保守党有利へと傾いた。しかも、労働党と保守党の激戦区の世論調査の結果を見ると、保守党が優勢であることが明らかとなった。そのため、ブラウン首相は今秋の総選挙を断念した。この時期に急いで総選挙を行えば、マジョリティを減らす、もしくは政権を失う可能性が大きかったからである。それまでに労働党は約100万ポンド(約2億3500万円)のお金を選挙準備のために使っていた。ただし、一番大きな問題は、それまで慎重に作り上げてきたブラウン首相への信用が大きく損なわれたことである。ブラウン首相は「臆病になった」と評され、しかも、総選挙を行わないという決断の直後に発表された3年間の財政運営計画で、政府が相続税を大きく改革したために、保守党の政策を盗んだといわれる始末である。11月6日の女王陛下のスピーチの後の下院での質疑応答では、保守党のキャメロン党首はブラウン首相を「弱い」首相だと評した。答弁するブラウン首相の右手は震えていた。キャメロン党首の発言は言いがかりであるが、ブラウン首相の判断ミスを最大限に活用してブラウン首相を傷つける作戦である。
日本の小沢党首も英国のブラウン首相も、自分たちを取り巻く状況がよくなったという背景を受けて「迷い」が生じた。そのため、大きな判断ミスをした。その結果、自分と党の信用を大きく傷つけた。いずれも現在自分が何をなさねばならないかがはっきりしていれば、その過ちを防げたのではないかと思えてならない。
2007-11-06
英国の判事は終身の仕事
日本では、判事は辞職したり、定年を迎えた後、弁護士になる人が多いが、英国では、一度判事(Judge:巡回判事や陪席判事以上の職)に任官されると定年の70歳(特別の場合75歳)まで判事の職だけで、その後、弁護士になることはできない。これは、判事の判断がより公平に行われ、その公平性が外部から疑われないように、さらに判事が独立して判断できるようにという原則に基づく。先の大法官であったファルコナー卿は、この制度を改めて、弁護士にも戻れるようにしようとした。特に女性の場合、そのキャリアに融通が利くようにしようとしたのである。しかしながら、現在の法務相ジャック・ストローはこの制度を変更しないことにした。それは、判事らから強い反対があったためである。判事であった人が弁護士として法廷に立つようなことがあればそれは、公平性に欠けるように見えるというのである。
英国の司法界は保守的かつ伝統的で、時として政府に反対するが、上で挙げたように国民の信頼を確保するようにするというのは、たとえ表面的であっても重要なことであろう。
なお、英国では、大法官は従来英国の司法のトップで、上院の議長も兼ねるユニークな存在であった。現在は、法務省が設けられ、その責任者が法務相となる。また、上院の議長は上院議員から選ばれる。なお、恒例の11月の女王陛下のスピーチは、時の政府の政策を女王が上院で読みあげる行事である。そのスピーチは、従来、大法官が女王陛下に上院で捧げるというのが伝統であったが、今年は、ストロー法相が捧げた。ストロー法相は、上院議員(すべて世襲や一代貴族)ではない平民がその役を務めた最初となった。
2007-10-31
英国首相官邸
英国の首相官邸は、「ダウニング街十番地」と呼ばれる。ジェフリー・アーチャーの小説にも同名の本がある。この小説は、保守党と労働党の下院議員が首相の座を巡って競い合うという内容だ。つまり、ダウニング街十番地とは英国の権力を指す表現でもある。
今では、ダウニング街の入り口に鉄の黒いフェンスが立てられており、あらかじめ予約してセキュリティのクリアランスが取れなければそこまでは行けないことになっている。
2007年6月に首相を退いたトニー・ブレアは、その家族と一緒に10年間ここに住んだ。ブレアの4番目の子供のレオは、ブレア在任中に生まれて、ここで育った。
この英国の首相官邸は、建物が棟続きに建てられているテラスハウスである。つまり、通り側から見ると、そう特別に威厳があるというものではない。その裏側につながった家があり、やや広くなっているが、アメリカの大統領官邸であるホワイトハウスやロシアのクレムリンなどとは比べ物にならない。マーガレット・サッチャーが首相になってからフランスの大統領官邸であるエリゼ宮を訪れ、その差に驚き、早速ダウニング街十番地の中を改装したが、そのサイズは、今でもそう大きなものではない。もちろん、これは英国の首相は国の元首ではないことと大きな関係がある。19世紀の前半に首相となったウェリントン公爵は、ここは小さすぎて住めないと言って、自分の自宅であるアプスレイハウスから執務したぐらいである。
18世紀から首相官邸となったダウニング街十番地は、今では歴史的な建物でもある。今後もここを舞台にいくつものドラマが繰り広げられていくだろう。
2007-10-29
政治のトップリーダーたちの年俸
タイムズ紙が主要国の政治のトップリーダーたちの年俸を紹介している。その年俸額は以下のとおりである。
アイルランド £217,000 (約5000万円)
アメリカ £195,000 (約4500万円)
英国 £187,000 (約4300万円)
ドイツ £183,000 (約4200万円)
フランス £168,000 (約3900万円)
ノルウェー £92,500 (約2100万円)
アイルランドの首相の年俸は、OECDのトップであり、310,000ユーロである。副首相も£192,000(約4400万円)と高額である。アイルランド首相は、英国首相にはチェッカーズと呼ばれる首相別邸(バッキンガムシャー州)があるが、自分にはそういう施設がないと言っている。
最近、英国前首相のトニー・ブレアがイタリアのトリノに妻のシェリーと旅行した時、運賃の安いバジェットエアラインのライアンエアーを使った。ブレアは首相時代から公私の別をつけるために休暇で外国に出る時にはしばしば、バジェットエアラインを使っている。確かに首相時代にはマスコミ対策の面もあった。ブレアは現在、国連、EU、アメリカ、ロシアの四者の中東特使という立場だが、その回顧録は、すでに契約済みで10億円近い著作権料が入ってくる。さらに1回の講演料が25万ドル(2750万円)とも言われる。妻のシェリーも法廷弁護士としてかなりの収入を得ている。しかし、締めるところは締めているのだろうか?恐らく、今でもマスコミの反応を警戒してのことではないかと思われる。
2007-10-16
ミンギス・キャンベル 自由民主党党首辞任
英国第三党のキャンベル党首が党首を辞任することを昨夕発表した。昨今の自由民主党への支持率の低迷がその原因だと言われるが、率直に言って、この発表の内容自体は何ら不思議ではない。かつては陸上短距離のオリンピック選手であり、体力的に優れていたと思われるが、その面影は今はない。実はそれが最大の問題であったように思われる。立ち居振る舞いに精気が欠けた。キャンベルの年齢を指摘する向きがある。しかし、それは必ずしも当てはまらない。1941年5月22日の生まれの66歳で、その年齢で活躍している人は数多い。例えば、イタリアの前首相シルヴィオ・ベルルスコーニは、1936年9月29日生まれで71歳であるが、バイタリティにあふれているように見える。自由民主党の前身である自由党で19世紀に活躍したウィリアム・グラッドストーンは、82歳で首相に就任した。現代の政界では、党首はエネルギーにあふれているように見えることが必要である。
2007-09-24
首相ゴードン・ブラウンへの高い支持
6月27日に首相に就任して以来、約2ヶ月がたつが、ブラウン首相への支持は高い。首相就任直後のテロ事件や洪水問題、それに金融機関の信用危機問題などいくつもの難しい問題に面したが、いずれも真剣な対応で、大過なく乗り切ってきた。まさしく、真摯に問題に取り組んでいるという印象があり、「真剣な対応」という言葉がもっともふさわしいと思われる。逆に保守党のデービッド・キャメロン党首はグラマースクールへの対応や、洪水への対応を誤り、また、病院の予算削減で十分な調査をせずに不正確な結果を発表するなどの失敗を重ねてきた上、さらに金融機関の信用危機問題で、ブラウン首相が国民の借金体質を生む政策を取ってきたなど、見当違いの攻撃を加え、関係者の批判を浴びた。つまり、マスコミ対策が中心で、その時々の得点稼ぎに終始している印象だ。こういう状況の中で、ブラウン首相と労働党政府への支持は安定しており、逆にキャメロン保守党への支持は下降している。
9月24日の大衆紙サンの世論調査では、両党の差は、8%に達し、もし、現在総選挙があれば、労働党のマジョリティ(他の政党の合計議席を何議席上回るかの数字)は現在の60から100に達すると見られている。そのため、総選挙があるのではないかとの見方が強まってきた。
なお、英国では、世論調査の質が高い。世論調査の専門機関に委嘱して調査が行われ、しかもその結果を詳細にわたって公表する義務があるため、サンの世論調査にも高い信用性がある。付け加えて言うと、各政党は独自の世論調査も行っており、各種の世論調査とあわせて、独自の分析を行っている。
労働党は、今、総選挙を行えば、労働党が勝利を収めるのは確実と見ていると思われる。しかし、政治状況は刻一刻と変化するため、最終的にはブラウン首相の判断である。むしろ、ブラウン首相の「政治的な勘」によると言えると思われる。
ただし、万一労働党が総選挙に破れれば、ブラウン首相は史上最短の首相となる可能性がある。一方、労働党下院議員の中に、現在の総選挙を望む声が強く、労働党には勢いがある。この機を逃すと法律案の処理の関係などで、来年の5月まで総選挙を実施するのは難しく、しかも、その頃の政治状況が労働党にとって有利かどうかはっきりしない。逆にEU憲法処理の関係で、国民の労働党への支持は今ほど強くないかもしれない。2005年の前回の総選挙から、5年の任期の終える2010年まで確かに時間の余裕はある。これらを考慮に入れてブラウン首相は、総選挙をこの10月末か11月に行うかどうか判断すると思われる。
私の見るところでは、発生した家畜の口蹄疫が完全に除去できていないこと、また、家畜のブルータング病が英国で初めて発生したために、これらの成り行きを見定めるほうが望ましいと思われる。さらに金融機関の信用危機問題が完全に峠を越したかどうかも見定めたほうがよいと思われる。ただし、総選挙を実施して、ブラウン首相がどういう国づくりを進めたいかを政治家と有権者にはっきりさせることは、単なる勝ち負けにかかわらず重要なことと思われる。その点で、私は、ブラウン首相は、総選挙に打って出るべきだと考える。
2007-09-24
中東和平とトニー・ブレア前首相の役割
9月23日にアメリカのニューヨークでアメリカ、EU、ロシアそれに国際連合の4者とその中東問題特使のブレアが記者会見を行った。11月にアメリカでこれらの4者と、シリアをはじめとするアラブリーグ加盟国らのサミットが開かれる予定。これは、2003年に発表されたイスラエル・パレスチナのロードマップ以降停滞している中東和平問題を進めるためのものである。アラブリーグの加盟国の中で、イスラエルと平和条約を結んでいるのはサウジアラビアとジョーダンだけで、鍵を握ると見られているシリアは、イスラエルとは未だに「戦争状態」にあるために、話し合いはそう簡単ではないだろう。しかし、ブレア前首相は、英国の解決不可能と見られていたIRAの北アイルランド問題を解決に導いた人物である。ブレア前首相は、現在のイスラエル・パレスチナ間の問題解決にはその機運があるのでそれを推し進めたいと発言している。
イラク戦争を進めたブレアには、中東和平への役割はふさわしくないという見解もあるが、ブレアは、本気でこの問題に取り組もうとしている。ブレアの妻のシェリーは、この役割に反対であった。あまりにも危険が大きすぎるというのである。しかし、ブレアは、6月27日に首相を辞職するや否や下院議員の職も辞職してこの役割に全力を傾けている。54歳で、本当に自分のやりたいことを見出したブレアの活躍を期待したい。